第15話 決意と教書
クラリスの墓前に立つたび、胸の奥から煮え立つような怒りが込み上げてくる。
執事を裁き、真実を知った。だが、それでもなお、すべての元凶であるエドワードは、執事がいなくなった屋敷で何事もなかったかのように振る舞っていた。
リオンは決めた。
復讐を、堂々たる決闘として果たすのだと。
リオンは気付いていない。
『決闘』という言葉に宿る意味の無さを。
それでも。
頭の中のもう一人のリオンの記憶が、物語の英雄のように、クラリスの仇を討ちたいと願っていた。
ただの殺しでは意味がない。
家族や使用人たちの前で、「正当な裁き」として成し遂げねばならない。
そのために、リオンは母方の血筋に縋った。
小領地を治める名門に手紙を送り、正式な決闘の作法を乞う。
数日後、返事が届いた。
筆を執ったのは、母の従兄であるレオナルド伯爵。
封を切ると、簡潔で冷徹な文字が並んでいた。
――便箋(抜粋 / レオナルド伯爵の書簡)――
「リオンへ。
お前の決意は受け取った。クラリスの件は痛ましく、我が一族も憤りを覚える。
決闘を望むならば、以下の手順を守れ。これを守れば“正当な貴族間決闘”として通用する。
挑戦の表明
文書にて正式な挑戦状を相手に渡せ。理由、決闘を望む旨、日時を記すこと。
立会人
両者はそれぞれ一人の立会人を立てねばならぬ。立会人は決闘の公正を保証し、違反があれば止める。
武器と条件
一般的には剣、もしくは魔法だ。お前が望むなら剣を選べ。勝敗の定義は“致命傷を与えた時”か“相手が投降した時”とする。両者の合意があれば“死をもって決着”とすることも可能だ。
場所と時刻
決闘の場は必ずしも領外でなくてよい。領内の広場、森の開けた場所、あるいは訓練場で構わぬ。重要なのは双方と立会人が合意することだ。時刻は明け方が望ましい。
証人の確保
第三者の証人を一人か二人呼べ。のちに不当な罪を着せられぬよう、決闘が正しく行われたことを証言させるのだ。
事後処理
もし勝利し相手を殺した場合、その行為は“家の名誉を守るもの”として正しく位置付けよ。我が家もその証言には助力しよう。
忘れるな、リオン。
決闘とは怒りのままの殺しではない。家の名誉とお前の未来を背負う場だ。心を乱さず、剣を持て。
――レオナルド伯爵」
――便箋終わり。
リオンは手紙を握りしめ、深く息を吐いた。
屋敷の中で、見下すように笑うエドワードの姿が脳裏に浮かぶ。
「……決着をつけてやる」
まだ幼い体であっても、元傭兵の魂は冷えた鉄のように固まっていた。




