第14話 裁き
リオンは、毎日クラリス殺害の犯人を探し続けていた。
そしてある日、兄の新しい執事の服のボタンに目を留めた。
彼は気付かれぬように、執事の持つ予備のボタンをひとつ盗み取る。
そのボタンを、クラリスが死の間際に握っていたボタンと慎重に比べた。
形も、刻印も、同じ。
リオンは確信した。
握り締めたボタンの感触が、怒りと悲しみを燃料に変える。
その夜、リオンは深夜の屋敷で静かに息を潜めた。
執事の部屋に忍び込み、暗闇の中で待ち伏せる。
扉が開き、執事が入ってきた瞬間。リオンは角材を振り下ろした。
鈍い音と共に、男は崩れ落ちた。
リオンとアンセルは協力して、気絶した執事を山の小屋へと運ぶ。
小屋の中央に椅子を置き、手首と足首をしっかりと縛りつけた。
薄暗い室内では、ランタンの小さな灯だけがゆらゆらと揺れている。
「……お前だな」
リオンの低い声に、執事は顔を引きつらせた。
汗と涙に濡れたその顔は、恐怖と後悔に歪んでいる。
リオンの瞳は、氷のように冷たかった。
「クラリスに何をしたのか、正直に話せ。嘘は許さない」
その言葉と同時に、リオンはためらいなくボウガンの引き金を引いた。
矢が放たれ、執事の足に深く突き刺さる。
「ギャアッ! やめてくれ……やめてくれぇ!」
絶叫が木壁に反響し、夜の山に消えていく。
震える声で、男は嗚咽まじりに口を開いた。
「エドワード様が……メイドに手を出そうとして……抵抗されて……俺が……殴って……それで……首を……」
途切れ途切れの言葉。
リオンは静かに矢を抜き、再び装填した。
「……わかっているな」
冷徹な声が、男の心を凍らせる。
再び矢が放たれ、もう片方の足を貫いた。
木の壁に響く悲鳴。
それでもリオンの表情は、微動だにしない。
「話せ……すべて話せ!」
痛みに悶え、涙と鼻水にまみれながら、執事はすべてを吐き出した。
クラリスに起きた出来事。
エドワードの暴行未遂。
抵抗の結果、命を奪われた経緯。
そして、彼女が最後に掴んでいたボタンの意味を。
リオンは黙ってその告白を聞きながら、冷静に矢を放ち続けた。
一発ごとに、罪を刻むように。
傭兵としての正確さと、復讐者としての激情が入り混じる。
やがて、執事は力尽き、言葉を失った。
リオンは最後に一矢を放ち、男の体が崩れ落ちる。
血の匂いが小屋の中に広がり、炎のような怒りの熱がゆっくりと冷めていった。
その後、アンセルと共に遺体を抱え、山奥へと運んだ。
月明かりの下、ひっそりと穴を掘り、遺体を埋める。
リオンは黙って土をかけ、長い息を吐いた。
「……クラリスの無念、少しは晴れただろうか」
静かな呟きに、アンセルが震える声で返す。
「リオン様……」
怒りと悲しみ、理性と冷徹さ。
そのすべてが混ざり合った夜。
それが、リオンにとって初めての“裁き”だった。




