第11話 失われた光
翌朝、俺は台所でいつものように火を起こそうとしていた。
だが、空気は異様に重く、屋敷全体が冷たく沈んでいることに気付いた。
アンセルが恐る恐る近づき、声を震わせる。
「リオン様……クラリスが……部屋で首を吊った状態で発見されました」
その瞬間、理解が体を貫いた。
クラリス。あの穏やかで、いつも頼りになるメイド。
俺に笑顔を向けてくれた、唯一無二の存在。
彼女の部屋に駆け込み、泣き崩れる他のメイドたちを押し退け、俺は彼女の身体に触れた。
「冷たい」
その冷たさが、彼女がすでにこの世を去ったことを否応なく教えた。
父のグスタフと継母のイザベラは、言葉少なに彼女の亡骸を扱った。
「こんな汚らわしいもの、早く墓地に入れろ」
冷たく、無慈悲な命令。
言葉を失う俺の胸に、怒りと悲しみと絶望が渦巻いた。
墓地に向かう途中、波のように感情が押し寄せる。
怒り、悲しみ、絶望、そして理解できない苦しみ。
「なぜ……なぜ……なぜ……なぜ……!」
声にならない叫びを、庭先で何度も繰り返した。
涙も出ず、ただ胸の奥の心が、少しずつ砕けていく感覚だけが残る。
クラリスがいたから、屋敷でも生きられた。
笑い、計画し、安心できた時間はすべて消え去った。
父も継母も、長男も、誰も悲しんでいない。
俺だけが、胸の奥で激しく壊れていく。
「なぜ……クラリスが……」
思考は同じ言葉に戻り、出口のない迷路をさまようように心が揺れた。
血と戦場を知った俺でさえ、幼い体で抱える感情の濁流に呑まれそうになる。
泣き虫だったあの頃とは違う。
今は理性もある。だが、理性では止められない痛みが、すべてを押し潰そうとしていた。
墓地の風が冷たく吹き抜け、クラリスの小さな遺体は土に埋められた。
俺はその場で崩れるように膝をつき、ただ「なぜ……なぜ……」と繰り返す。
屋敷に戻ると、父も継母も何事もなかったかのように朝の体制に戻っている。
俺の心だけが、穴だらけに崩れ落ちていた。
世界が、一瞬で壊れたのだ。




