第10話 小さな計画と小さな心
ある日の夕方、屋敷の庭でリオンはクラリスと向かい合っていた。
手元にはメモ帳と簡単な帳簿、そして火の通った焼き肉の残り香が漂う台所の匂い。
「リオン様、どうしました? また何か企んでいるのですか?」
クラリスは手を腰に当て、微笑みながらも好奇心いっぱいの瞳で見つめる。
「うん。ちょっと試してみたいことがあるんだ」
リオンは帳簿を広げ、領地の収入や物資の流れを整理して説明した。
「ここで食料を効率よく集めて、無駄なく分配できるようにすれば、屋敷でもっと自由に食事や活動ができる」
クラリスはうなずきながらアドバイスをくれる。
「なるほど……この計画なら、皆が喜びますね。でも、屋敷の目を盗むなら段取りも大事です」
二人で笑いながら作戦を立てる。
細かく獲物の保存方法や、使用人たちとの連携、焼肉パーティーのタイミングまで考える。
リオンは、こうして誰かと一緒に物事を考え、実行できることに小さな幸福を感じた。
ふと横を見ると、クラリスの髪が夕陽に照らされて輝いている。
その柔らかい茶色の髪、笑ったときに見える小さなえくぼ、真剣に計画を練る姿。
リオンは胸の奥が少しドキリとするのを感じた。
(あれ……これって……可愛い、かも。)
まだ幼い、次男坊としての恋心かもしれない。
けれど、クラリスのそばにいると心が落ち着き、楽しくて仕方がない。
計画の途中、思わず手元のメモに少し大きめの字で「クラリスに褒めてもらう作戦」と書き込んでしまったほどだ。
夕暮れの庭で、二人は小さな笑い声をあげながら作戦をまとめた。
リオンにとって、屋敷の自由時間も、狩りも、そしてクラリスとの時間もすべてがかけがえのない戦利品だった。
「明日から実行だ、クラリス」
「はい、リオン様」
小さな計画、小さな勝利、そして少しの淡い恋心。




