第107話 二日酔いと雷の槍
朝日が山の稜線を染める頃、狼族の集落は昨日の宴の余韻に包まれていた。
焚き火の灰がくすぶり、地面には転がる酒瓶と、ぐったりとした戦士たちの姿。
ほとんどが頭を抱え、呻き声を漏らしている。
リオンは膝に赤ん坊ミラを抱きながら、広場に整然と並べた猟銃やナイフを眺めた。
「さて……昨日の宴で力を付けたところで、今日は武器の扱いを教えるぞ」
その声に、地面に伏していた戦士たちがゆっくりと顔を上げる。
ふらふらと立ち上がりながらも、彼らは興味と警戒を入り混ぜた目でリオンのもとへ集まった。
だが二日酔いのせいで足取りはおぼつかない。
リオンは小さくため息をつき、手にした銃を肩に構える。
「まずは狙いを定める……引き金は軽くだ」
静寂を裂くように。
ドンッ!
轟音とともに山々に銃声が反響した。
戦士たちは一斉に耳を押さえ、跳び上がる。
「わ、わわっ! なんだこの音は!」
「耳が……割れそうだ!」
リオンは慌てず、小さな装置を取り出した。
「これは“ワイレヤスイヤホン”。銃の音を抑えながら撃てるんだ。付けてみろ」
戦士たちは半信半疑で耳に装着し、再び銃声を聞いて驚く。
「……おお、耳が痛くない!」
「これなら戦いながらでも集中できる!」
リオンは笑みを浮かべ、順に銃の構え方、引き金の感覚、弾の装填、狙いの付け方を一人ずつ丁寧に指導していった。
最初は恐る恐るだった狼族たちも、徐々に真剣な眼差しに変わり、的を撃ち抜くたびに歓声を上げる。
その様子を、少し離れた場所で族長ガルヴァンが腕を組みながら見守っていた。
焚き火の煙の向こうで、彼は口元に笑みを浮かべる。
「小僧……ただの人間ではないな。戦術も心得ておる」
広場の端では、耳栓をつけた赤ん坊ミラが小さく転がりながら、興味深そうにリオンの動きを見つめていた。




