第104話 決意の夜
族長ガルヴァンの言葉に、焚き火を囲む戦士たちの怒りはまだ収まりきらない。
その重い空気の中、赤子のミラが布から抜け出すように身をよじり、ヨチヨチと歩き出した。
「ミラ……!」
リオンが慌てて両手を伸ばす。
小さな足取りで辿りついたミラは、リオンの膝にちょこんと座り、顔をスリスリと寄せてきた。
そして安心したように小さな寝息を立てる。
その姿に、狼族の戦士たちの視線が集まった。
ざわめきは消え、静寂が広がる。
リオンは幼子を抱きしめながら、焚き火を見据えた。
「……俺はミラを守りたい。ミラが安心して眠れる世界を作りたいんだ」
強い声が夜に響く。
「だから……狼族と共に戦う。ライストア軍が仲間を奴隷にし、嘘で塗り固めているのなら、俺も力を貸す」
狼族の戦士たちが目を見開いた。
人間の少年が自ら共闘を口にするなど、誰も予想していなかったのだ。
族長ガルヴァンはしばし黙し、やがて低く笑った。
「……いいだろう。幼き身でそこまで言うか。ならば我らと共に立て、リオン」
焚き火の炎が大きくはぜ、狼たちの影を赤く染め上げた。
リオンの胸には、熱い決意が灯っていた。




