第103話 狼族の怒り
焚き火を囲んだ族長会議は、夜更けまで続いた。
族長ガルヴァンの隣に座るリオンも、真剣な空気に耳を傾けていた。
「……ニスアの街から戻った者の話では、我らの仲間が捕らえられ、奴隷として売られているという」
壮年の戦士が低い声で語る。
「鎖につながれ、街道で人足として酷使されていた……見間違いではない」
ざわめきが広がり、狼族たちの顔に怒りと悲しみが交錯する。
ガルヴァンも険しい表情で拳を握った。
「奴らは……我らを獣のように扱うのか」
リオンは迷った末に口を開いた。
「……ライストアでは、狼族は山賊だと教えられているんだ。だから兵士も民も、そう信じて疑ってない」
その言葉に、場の空気が一瞬で張り詰める。
「なに……山賊だと?」
「我らを盗賊と同じにするだとッ!」
「誇り高き我らを、賊呼ばわりか!」
炎の揺らぎと共に、怒声が飛び交う。
牙をむく戦士たちの視線が一斉にリオンへと注がれた。
だが、族長ガルヴァンが手を上げて制した。
「落ち着け! リオンは敵ではない。あくまで“人間の国”で流布している噂を伝えたのだ」
戦士たちの息は荒く、焚き火の火の粉が夜空へと舞う。
リオンは視線を受け止めながら、心の奥で強く思った。
(……こんな誤解が、戦を生むのか。なら、どうにかして真実を伝えなきゃならない)
ミラが布の中で泣き声を上げたのをきっかけに、張り詰めた空気が少しだけ和らいだ。
ガルヴァンが赤子を抱きながら低く言う。
「……リオン。お前が人の国から来たからこそ、知れることがある。だが、この屈辱は容易に忘れられるものではないぞ」




