第102話 狼族の集落
山岳の奥深く、切り立った崖を抜けると、そこには広大な谷間が広がっていた。
木造と石造りを組み合わせた頑丈な家々が並び、焚き火の煙がゆるやかに天へ昇っていく。
狼族の集落。
リオンとミラは、ついにその中心へと迎え入れられた。
「族長のお戻りだ!」
「……その赤子はもしや!」
集落の者たちは、族長ガルヴァンに抱かれるミラの姿を見て、驚きと喜びを入り混ぜた声を上げる。
戦士も子供も、老いた者も、次々と集まり、涙ぐむ者までいた。
リオンは少し照れながらも、皆の熱気に押されるように足を進めた。
焚き火の前に腰を下ろすと、温かい食事が並べられ、果実酒が振る舞われた。
「リオン。妹を失った悲しみは消えぬが……その子をここまで導いてくれたこと、感謝する」
ガルヴァンが厳かに言葉をかけ、集落の者たちも一斉にうなずいた。
リオンは小さく笑い、ミラをあやしながら答えた。
「俺はただ……託された約束を果たしただけさ」
集落の温かさに胸が少し緩んだリオンだったがその時、ふと耳に入った声に眉をひそめた。
「……国境の街ニスアから兵が出てきているらしい」
「ライストア王国の軍が北側の山岳にも目を光らせている、と……」
焚き火を囲む輪の外で、戦士たちが小声で語り合っていた。
リオンの中に、また重苦しい気配が忍び寄る。
(やはり……戦の影が、ここにも近づいているのか)
赤ん坊ミラの無邪気な笑顔を見ながら、リオンは心の奥で強く思った。
「戦だけは……この子に背負わせるわけにはいかない」




