第101話 狼族の客人
赤ん坊の泣き声に場が和んだあと、族長は大きく息を吐き出した。
その男は鋭い眼光を持ちながらも、どこか深い哀しみを宿していた。
「……私はガルヴァン。狼族を束ねる者にして、ミラの母。我が妹ルナの兄だ」
その名乗りに、戦士たちも一斉に頭を垂れる。
リオンは赤ん坊を抱き直しながら、静かに頷いた。
「俺はリオン。旅の冒険者だ。……ルナから、この子を託された」
そう言ってリオンは、懐から宝石を取り出した。
淡く光を放つその石を見た瞬間、ガルヴァンの目が見開かれる。
「妹の護り石……間違いない。ルナはお前を信じて、この子を……」
ガルヴァンの声がわずかに震える。
だが次の瞬間、族長らしく気を引き締め、堂々とした声で言った。
「リオン、妹の形見を届け、我が姪を守ってくれた恩義、狼族は忘れぬ。お前を客人として迎えよう」
戦士たちの警戒が一気に解け、険しかった表情が和らぐ。
ガルヴァンは手を差し出し、リオンの肩を力強く叩いた。
「さあ、我らの集落へ来い。妹の子と共に、狼族の家族として迎えようではないか」
リオンは赤ん坊ミラをあやしながら、ほっと小さく笑った。
「……ありがとう。少し、安心できそうだ」
こうしてリオンは、狼族の集落へと案内されることになった。




