第99話 狼族の族長
狼族の戦士たちのざわめきが収まらぬ中、茂みの奥から一際大きな影が現れた。
逞しい体格に黒灰色の毛並み、片目に古傷を持つ男。
狼族の族長だった。
「……その子をどうするつもりだ、人間」
低く響く声に、戦士たちが一斉に静まる。
リオンは赤ん坊を抱え直し、族長と目を合わせた。
「この子の母親に託された。……最後の言葉で、北の山に兄がいると」
族長の鋭い目が揺らぐ。
だがすぐに冷徹な光を取り戻すと、赤ん坊を奪うように手を伸ばしかけ、寸前で止めた。
「……口だけなら誰でも言える。証はあるか?」
リオンは無言で腰の袋を探り、母親から託された宝石を取り出した。
光を受けて深い紅色がきらめく。
族長の瞳が見開かれる。
「……これは……妹の形見……!」
戦士たちが息を呑む中、族長は宝石を手に取ると、しばし無言で見つめ、そして低くうなった。
「……間違いない。お前は嘘を言っていない」
赤ん坊がふにゃりと泣き声を上げる。
族長は険しい表情を和らげ、そっとその頬に指を触れた。
「……妹の血だ。……よくぞ届けてくれた、人間」
リオンは肩の力を抜き、静かに言葉を返す。
「約束したんだ。この子を家族に返すって」
族長はしばし黙した後、鋭い視線を再びリオンへと向ける。
「……ならば、この子の命を救った礼をせねばならん。だが人間よ、我らが種族に踏み込む以上……お前自身を試さねばならぬ」
狼族の戦士たちがざわめき、周囲の空気が再び張り詰める。
リオンは赤ん坊を族長に託しながら、わずかに口元を歪めて笑った。
「……試すってなら、受けて立つさ」




