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第86話 久々にバールを

「うおっ!」

 変な声が出てしまったが、ピットフィーンドの爪を間一髪で避けた。

 ミレイの身体能力強化のおかげで、ピットフィーンドの攻撃でも見えるし、速度に対応して体が動く。

 回避系スキルの効果で攻撃が遅く見えていたりするかもしれない。どうもスキル効果って実感できないんだよな。

 刃物にも萎縮せず冷静に回避できていること自体、スキル効果なのかも。真実は分からぬままであるが……。

 爪を間一髪で避けたってことは紫のオーラにも触れたわけで、お、何ともないぞ。

 ならばとバールを振りかざし、ピットフィーンドの腕へ思いっきり叩きつけ、急ぎ距離を取る。

 が、ここで突如右腕全体に激しい痛みが!

「グルゲル、任せた!」

「おう」

 焼けるような、刺すような、痛みにうずくまりそうになるが、ピットフィーンドに背を向け一目散に山田さんの元へ駆け寄る。

 その間も右腕の服は完全に溶け、しゅわしゅわと肉を溶かしながら煙があがっていた。

「すぐ治療するね。2分戻すよ」

「あ、ありがとう」

 俺の肩に「再起の杖」が乗ると、一瞬にして痛みが引く。溶けた服も完全に元通りだ。

 すげえな、再起の杖ってやつは。

「マツイ、交代しようぜ」

「え、突っ込んだの?」

 ピットフィーンドを押しとどめていたグルゲルから声がかかる。

 し、仕方ない。彼女を安全に回復させないと。

「マーモ、頼むよ」

『あとで梨を寄越すモ』

 山田さんの足元でじーっとしているマーモへ改めてお願いして、再びピットフィーンドの元へ。

 喰らってからしばらくは痛みがないから、バールで攻撃するに支障はないんだよな。

 グルゲルと入れ替わり、彼が回復するのを待ってからピットフィーンドに攻撃を加える。

 なんてことを繰り返していると、分かってきたことがあった。

 紫のオーラという致命的かつ必ず喰らう技を持っているからか、爪での攻撃はたいしたことはない。

 紫のオーラを除くと、ゴールデンなんとかやツインヘッドドラゴンの方が回避に苦労する。

 もっとも、その紫のオーラが厄介過ぎるわけだが、無限に一瞬で全快できる山田さんの再起の杖があれば、まるで問題にならないのだ。

 他には魔法による無効化とか、耐性のある防具とかでも対策できそう。どちらも持ち合わせていないけどね!

 だけど、「再起の杖」以上に優れている手段はないんじゃないかな。

 繰り返すこと数十回、俺の攻撃でもピットフィーンドの難い岩ボディへダメージを与えることができている。

 グルゲルのナイフとは相性が悪いみたいで、俺と同じくらいしかダメージを与えれていないようだ。

 硬い相手には鈍器、やっぱこれだよね。バールよりハンマーの方がよりダメージを与えることができそうだけど、あいにくバールしか持っていないのだ。

「紫が無くなった時は引くぞ」

「うん、ピットフィーンドには首はねできないの?」

「落ちても動きは変わらねえ。落とすなら、爪のある腕の方がいい」

「右腕を集中的に狙うよ」

 などと合間合間でグルゲルと会話し、更に繰り返すこと8回でピットフィーンドの右腕を根本から砕くことができた。

 絶え間ない攻撃が功を奏したのか、今のところピットフィーンドの紫のオーラが解除されることは一度たりともない。

「ぐ、ぐうう」

 後からやってくる痛みは何度やってもなれない。

 よっし、山田さんのところまで後退だ。

 と、進み始めたら突然の浮遊感。

「う、うお。グ、グルゲル?」

 どうやらグルゲルに後ろから掴まれ放り投げられた模様である。

 その間にも右腕から煙があがっていたが、痛みより驚きの方が大きい。

「ヤマダ、伏せろ。んで、こいつの回復も頼む」

 グルゲルはそう言い放つや、放り投げた俺をキャッチしてから、山田さんの元へ落とす。

 俺に対する扱いが雑過ぎるだろ!

 山田さんが倒れた俺の胸へ再起の杖を乗せる。すると、打ち付けた痛みも紫のオーラの焼け付く激痛も嘘のように消えた。

 頭を起こすと、グルゲルが俺たちの前に立っていて只ならぬ雰囲気を醸し出している。

 その先には全身がボロボロになり、右腕を砕かれたピットフィーンド。こいつ、紫のオーラを解除しているじゃないか!

『護ると約束したモ。梨のためだモ』

 茶色いずんぐりしたマーモットがのそのそと、グルゲルの前に出た。

 そこで、ピットフィーンドの目が赤から紫に変わり、俺たちを余裕で包み込むほどの太い紫色の閃光が飛んでくる。

『「一の太刀、払い抜け」だモ』

 マーモが高く飛び上がると蛍光灯の光が2メートルほどになった。

 ぶおんぶおん。

 回転するように蛍光灯が振るわれ、紫色の閃光が掻き消える。

「老師、助かったぜ、今が好機、行くぜ、マツイ」

「う、うん」

 グルゲルに手を引かれ立ち上がった。

 大技の後は隙が生まれる? のか、その辺りの塩梅はグルゲルにお任せだ。

 彼女がいけるというのなら、いける!

「うおおおらああ」

 バールでぶったたく、ぶったたく、ぶったたく。

 バールを新調しておいてよかったぜ。元のバールならダメージを与えられないばかりか、武器自体ダメになっていたかもしれない。

「はあはあ……」

「おつかれ」

 何度叩いただろうか、ついにピットフィーンドが光の粒となって消え去った。

≪討伐報酬 

 世界の書 その17 解放

 1000000ガルド

 神酒

 神域コッズ鉱石≫ 

「いつもはマーモに倒してもらっていたけど、まともにやるとこれほど叩かないとダメなのか」

「老師の光の剣と比べるもんじゃねえって」

 グルゲルは俺の倍ほど攻撃してくれていたから、俺一人だったらどんだけ叩かないと倒せないかと思うとゾッとする。

「山田さん、マーモ、ありがとう」

『梨を寄越すモ』

「ううん、これほどドキドキしたの初めてだよ」

 感極まったのか山田さんに抱きしめられた。

「あ、う」

「痛かったよね、松井くんは初挑戦で、ここまで……わたしももっとやれたのに……」

「山田さんがいなきゃ、勝てなかったよ」

 涙を浮かべる山田さんにどうしていいのかわからず、戸惑うだけの俺であった。

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