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第82話 物語の主人公的な

「松井くん! グルゲルさん!」

 引き返し始めた俺たちを見た山田さんがタタタタとこちらに駆けてくる。

「マーモちゃん、見たよ!」

『しゃりしゃりしゃり』

 食べ始め動かないマーモを両脇をむんずと掴み山田さんの方へ向けたのだが、彼が彼女の呼びかけに応じることなどもちろんなかった。

 食べているから仕方ない。顔くらい上を向けばいいのに、完全に果物にご執心である。

「全てマーモがやってくれたんだ」

「見てた! とっても強いんだね」

「マーモはまだ強さの底が見えない。憑依並みの強さなんじゃないかと」

「そうかも! 榊君とそん色ないよ」

 ん、いつの間に山田さんは榊君の戦う姿を見たことがあるのか。俺の知らないうちに榊君たちと出かけていた……いや、違う。

 「今回」じゃあないんだ。どこかのループ回で榊君たちとパーティを組んだのだと推測できる。

 榊君たち攻略組は「神器」持ちの神崎君もメンバーに入っているし、「絶対的な回復能力」を持つ山田さんが加わっても自然だよな。

 彼女がどこまでモンスター慣れしているかによるけど……いや、彼女はモンスターによって死亡する回も数度あったはず。

 改めて何度も繰り返すってチート感強い便利能力だと分かる。かといって繰り返す能力が欲しいのかというと、絶対お断りだ。

 俺だと「死に戻り」したときの絶望感に耐えられると思えない。「死に戻り」する某ラノベとかアニメの主人公たちはよく廃人にならないよな、と感心する。

 山田さんだってそうだ。彼女の心の強さには感服しかない。

「神崎君の戦う姿を見たことないけど、憑依じゃなくても憑依並みの強さを持てるようにはできているだと思う」

「神崎君はマーモちゃんほどじゃないと思う。だけど、神崎君ならこれからもっともっと強くなると思うよ」

「戦い慣れ、だよね」

「うん!」

 おっと、エクストラステージのことについて語ろうと思ってたのに話が逸れた。

 しかし、グルゲルがこの話題に乗っかってくる。

「カンザキ? ああ、ウプサラに同行していた剣士か。剣士にあまり詳しくねえが、素地はよい」

「グルゲルから見ても神崎君は逸材なのかな」

「そうだな。剣聖とまではいかずとも、老師に挑戦した剣士くらいならすぐになれるくらいに素質があると思うぜ」

「ウプサラに肩を並べる、くらいまで成長するかもだね」

 対するグルゲルは鋭い目つきになり、パチリと指を鳴らす。

「まずウプサラとはタイプが違う。カンザキは素早さと技のキレで勝負するタイプだ。適切な師がいて数年修行をすればいいところまでいくんじゃねえか」

「ウプサラじゃ師にならないのかあ。モンスターとの実戦で高められるところまで高める?」

「んまあそうだな。老師でも師にはならねえ。ま、麓クラスの相手なら今でも倒せるんじゃねえか」

「す、すさまじいな、神崎君……」

 物語の主人公ってまさに彼のような人を指すんじゃないだろうか。

 神崎君は降臨による補正はなく、最強の武器を手に己の持てる力を急速成長させ、モンスターをばったばったとなぎ倒す。

 人柄も申し分なし、ぼっちの俺にまで優しい。

 完璧すぎる。

 といっても、俺が彼をお手伝いするとかは毛頭考えていない。ぼっちの俺はぼっちの俺らしく、粛々とソロで進むのだ。

 最近、グルゲルや山田さんと関わって進んでいたりするけど、成り行きってやつは仕方ない。ダブスタすまん。

 って神崎君のことを語りたいわけじゃない。

「は、話が逸れちゃったけど、エクストラステージのことを伝えたい」

「おう、そうだったな」

「エクストラステージ? なんだろう?」

 グルゲルがそういえば、って感じで顎をさすり、山田さんはワクワクと目を輝かせる。

 先ほど考えたこと――裏ボスがいる隠しステージに本来の最終ボスを倒す前に来てしまったんじゃないかってことをかいつまんで二人に伝えた。

 しっかし、二人の反応はどちらも微妙だ。

「う、うーん、ゲームのことよく分からないけど、ラスボス? を倒さないと裏ボスには挑戦できないんじゃないのかな?」

「よくわからん、とりあえず全部倒してからにしようぜ」

 山田さんはともかく、グルゲルのその脳筋思想はなんとかならんのか。

「わざわざ危険に飛び込むのもなあ」

「未知を探索するのがエクスプローラーってもんだろ」

「エクスプローラー? ああ、俺たちプレイヤーのことか」

「ダンジョンに放り込まれた。そこを探索しろ、なら行くしかねえだろ」

 う、うーん、ゲームを攻略するという発想と未踏の地を調査することはイコールではないと思うんだ。

 いや、全部否定しているわけじゃなくてだな、俺も深く深くへ潜って行っているわけだし、そこに何かしらの答えがあると考えている。

 でも何というか、777階はクリアと関係ないところなんじゃないかなあという思いが強いんだ。

 唸る俺に向け、山田さんが細い指を立て最もなことを投げかけてくる。

「松井くんもグルゲルさんもクリアってどう考えているの? 私はディープダンジョンから元の世界へ全員で戻ることがクリアだと思っているよ」

「同じだよ、クリアとは元の世界への帰還と考えている」

「オレはルイが元にもどりゃいい」 

 グルゲルのクリアと俺と山田さんのクリアは条件が異なるけど、元の世界へ帰還できることになったら、高山さんも元通りになるんじゃなかろうか。

 俺たちの意見を聞いた山田さんが深く頷き、次の質問へ移る。

「クリアする条件って何だろう? ラスボスを倒せばいいのかな?」

「俺個人の考えは違う。ラスボスを倒せば帰還できる可能性が高い、くらいかな」

「松井くんもそう考えていたんだね! ラスボスが条件だったとしても、一人がラスボスを倒せばみんなクリアになるのかも分からないよね」

「あ、その発想もあったか」

 憑依、神器、真理のうち、神器については戦闘が得意じゃないものを引いた生徒はどうなるんだろうか?

 真理は魔獣ガチャという超強力なものが用意されていたから、マーモやミレイを引けば憑依と同じくダンジョンをガンガン進んでいけるようになる。

 誰か一人がクリアできればいい発想なら、戦闘向きでない神器の人は憑依や真理の誰かがボスクリアできるまで待てばいい。

 それはそれで、何の意味があって非戦闘系神器を用意したのか分からなくなるんだよね。

 ゲームぽい作りだから、きっと非戦闘系神器にも意味はある。

 憑依が最初から全て最強ってのが嫌らしいディープダンジョンらしいんだよねえ。

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