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第80話 最高の投擲を見せてやる

「うおおりゃあああ」

 角度良し、方向良し、力加減良し。

 マーモが綺麗な放物線を描いて飛んでいく。

 最高高度から落ちていく角度を見るにちょうど蒼の王の頭上に到達する。

 対する蒼の王も黙ってみているわけではない。短い前脚を振るいつつ、頭を横に向け前脚でマーモを逃した時に横顔で叩き落そうという構えだ。

 初動を見てもこれまでのモンスターと違って、こちらを一切侮っていない。

 ブレスで迎撃するでもなく、堅実に前脚で待ち構えるだけじゃなく二の手も用意している。

 ブレスなどの大技は威力と範囲が広く相手に致命的なダメージを与える可能性が高い。しかし、躱された時の隙も大きいのだ。

 これまでの敵はより威力……いや、範囲が広い攻撃を選択していた。

 ところがこいつは、リスクを嫌う。ちゃんと「考えて」動いているのが、これまでのモンスターとの大きな違いだ。

 あんな小さなマーモットにでも最大の警戒を行い、全力で叩き潰そうとしている。

「蒼の王もマーモのことを知ってるんじゃ」

「それはねえと思うぜ」

 いつの間にかグルゲルが背後に立っているではないか。

「ちょ、山田さんは?」

「通路のところで待っててもらってんぜ。老師がやる気となりゃ、見たいってもんだろ」

 いけしゃーしゃーともっともらしいことを言っているグルゲルだが、山田さんのことを放置してやってくるとは……自由奔放なのはいいのだが、事前に取り決めしたことは守って欲しいものだなあ。

 物申そうとしたが、先んじて彼女が俺の肩に手を置いてくる。

「オマエの女の安全確保は問題ねえ。ブレスは届かねえのはさっき見た。通路側にモンスターの気配はない」

「グルゲルが安全確保できたというなら言うことはないよ」

 先に山田さんのことを説明してからにしてくれよお。彼女は自分の役割を果たしている、それならいいんだ。

 彼女が来てくれるなら、ピンチの時に頼ることもできそうだし、むしろ願ったり叶ったりである。

「蒼の王の咆哮を聞くと体がすくんでしまうんだけど、グルゲルは平気そう?」

「ん、ああいうのは『来る』と感じたら『構えろ』」

 なんの参考にもならないご意見をいただきました。しかし、彼女の言葉から想像するにグルゲルはバインド状態にならない。

 万が一の時は彼女に俺とマーモを運んでもらおう。

 なんて会話をしている場合じゃない、マーモと蒼の王の様子を見なきゃ。

 自ら投げろと俺に言ってきたものの、蒼の王の出方を見るにこれまでのモンスターとまるで違う。

 当たり前であるが、表示色は真っ赤であることは言うまでもない。

 

 マーモを迎撃する体勢の蒼の王へ向け、蛍光灯を構えた彼が落ちてくる。

 そこへ、蒼の王の右前脚が振るわれた!

 対するマーモはクルリと体を回転させ、蒼の王の右前脚に着地し挨拶代わりに蛍光灯をぶおんぶおんと薙ぐ。

 恐らくツインヘッドドラゴンより硬い蒼の王の鱗をやすやす切り裂く蛍光灯の光。

 といってもマーモの小さな蛍光灯では表皮を僅かに切り裂いた程度だ。

 蒼の王の反応も爪で引っかかれたくらいの感覚だったようで、痛みの反応がない。

 こざかしい小動物を振り落とそうと、右前脚を上下に動かすも、既にマーモはそこにはいなかった。

 自力でジャンプしたマーモは蒼の王の肩へ飛び移る。

 そこでもぶおんぶおんと蛍光灯を流麗に動かし鱗を斬るが、蒼の王には蚊が刺されたくらいのダメージしか入らない。

「マーモが自力でもあれほど高く飛べるとは」

「老師は宙を舞う。まだまだ本気のギアじゃねえぞ」

「マーモの本気で戦う姿を見たことがあるの?」

「いや、老師に立ち会いを求め、山まで来た剣士がいたんだが」

 マーモが住んでいた山は、凶悪なモンスターがひしめく危険地帯だったっけ。

 わざわざマーモに会いに来るとなるとウプサラほどじゃないにしろ、なかなかの実力者のはず。

 その実力は単独で山の麓にいるツインヘッドドラゴンくらいだったら鼻歌混じりで倒すことができるレベルなんだよな。

 そんな剣士がマーモと立ち合いをした結果は、俄かに信じられないものだった。

 剣士の武器は双剣、と手数を重視したもので、小さいマーモを相手にするに相性が良い。

 彼と戦うために、わざわざ双剣の修行をしてきたのかもしれないな。

 本気の剣士相手にマーモの得物はその辺に落ちていたただの木の枝だった。

 無呼吸で繰り出される双剣の連撃をのらりくらりと全て回避し、もっと打ってこいと前脚をくいくいっとさせるマーモ。

 いくら剣士がマーモに当てようとしても当たらす、終いには真後ろに回り込まれてズボンを爪で引っ張られる始末。

「まあ、全く勝負にならなかったわけだわ」

「その剣士、そんなに強かったの?」

「まあ、俺とガチでやりあったらいい勝負にはなるんじゃねえか。負けねえがな」

「グルゲルの場合、真正面から戦う事態にならないよね。そこが持ち味なんだし」

「カカカ、スカウトだからな。真正面の戦いは避ける」

 俺からすると真正面から戦ってもグルゲルはとんでもなく強い。目にもとまらぬ速度でモンスターの首を跳ね飛ばすからね。

「マーモの回避能力が神がかっていることは分かった。蛍光灯の仕組みはまるでわからないけど、蒼の王の鱗でも意に介さない。だけど、サイズが……」

「あ、あの光の剣は誰でもああなるわけじゃねえ。老師が持つからだぜ」

 言われなくても俺にだってそれくらい分かるぜ。そのままじゃただの蛍光灯が光の剣なんぞになるわけがない。

 一応、マーモの使っている蛍光灯を俺も振り回してみたが、ただの硬さが超強化された蛍光灯だった。

 決して、ぶおんぶおんはしない。

「ミレイの魔法みたいなもんだろ?」

「まあそんなところだ。アレを習得するだけでも才能と相当な修練が必要だぜ。まして光の剣をあの威力にまで高めるとなると……ゾッとする」

「習得したからといって何でも斬れるわけじゃないんだな」

「そういうこった。あとなんだ、ダメージが入っていないだったか? そいつは見てろ、きっと噂に聞くアレが見れるはずだ」

 さも楽し気に顔の端をゆがめるグルゲルの態度に少しばかり安心する。


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