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第78話 *777階にいる*

『しゃりしゃりしゃり』

 全く問題なかった。暗いとか暗くないとかマーモの食欲には全く影響がないのである。

 何が何でも食べようとするその心意気、一周回って感心するわ。

「楽しいね」

 自分の膝を抱えるようにして座った山田さんが多分俺の方を向き一言。

「ほ、ほんと? 山田さん、さっきひどい目にあっていたじゃないか」

 グルゲルと超絶ダイブをした後で、山田さんから信じられない言葉が出てきたのでつい聞き返してしまう。

「うん、松井くんと『攻略』?するのは初めてだもん。グルゲルさんもとっても紳士だし」

「そういや山田さんとは宝箱を開けに行ったりしたけど、深い階層は初めてだったね」

「そうだよー。深い階層って怖くて、みんなピリピリしていたけど、二人は自然体だし、こんな深い階層なのになんだか暖かくて、いいなって」

「グルゲルはダンジョンでも地上と同じく鼻歌だしなあ」

 俺? 俺はまあ、モンスターと戦っている時はシリアスなつもりだけど、それ以外の時間はマーモットとミレイ、それに今はカラスという気の抜けるメンバーと一緒だから、緊張感とか悲壮感とは真逆になる。

 特にマーモときたら、どんな場面でも果物を欲しがるもの。シリアスになりようがないってもんだぜ。

 忘れがちであるが、イルカもずっとふよふよしている。

「最近私に語り掛けなくなりましたね、この浮気者」

「ちょ、一日一度は語り掛けているじゃないか」

 イルカのことを考えたら、イルカがいつもながらの憎まれ口を叩いてきた。ひょっとして俺の思考でイルカのスイッチが入ったりする?

 何だか怖くなってきたのでこれ以上考えるのをやめた。

「あはは、イルカさんと会話していたんだよね」

「う、うん」

 後頭部に手をあてて苦笑いし、イルカに向けシッシと手で払う仕草をする。

 しかし、イルカは俺から一定距離以上離れることはない。どれだけ速く走っても、風呂につかってもイルカはふよふよと近くに浮いている。

 それはそうと、グルゲルの瞑想がまたしても長い。

 今度の空洞……竪穴も700メートル以上あるのだろうか?

 

 数分が経過し、ようやくグルゲルが腰をあげる。

「特になんもねえな。ここと同じだ。潜るぞ」

 グルゲルが山田さんの手を引くも、待ったをかけた。

「ミレイ、山田さんにも軽くなる魔法をかけてもらうことってできるかな?」

「うんー、えーい☆」

 俺の時と同じく、山田さんをぼんやりとした光が包み込み、すぐに消える。

「グルゲル、俺たちが先に降りるから念のため俺のロープを伸ばして山田さんの腰にもロープを装着したい」

「おう」

 さあて、準備完了。

 山田さんと手を繋いで、二度目の空洞へダイブする。二度目ともなると、一度目と異なり足がすくむこともなく空洞へ飛び込むことができた。

 ゆるりゆるりと落ちていく。 

 ぼーっとしていたら、いつのまにか底に着地していた。勝手に進んでくれるって楽ちんでよいねえ。

「一歩、横へずれてくれ」

「うお」

 トスンとグルゲルが今俺のいた位置へ華麗に着地する。も、もうちょっと早く言ってくれよ。

 着地したグルゲルはさっそく周囲を調べ、コンコンと人差し指で壁を叩く。

「ここだな、老師」

「マーモ、頼む」

 ぶおんぶおん、と蛍光灯が翻り、壁が崩れる。

 その先は明るくなっていて、10メートルほど進んだところでまた壁になっていた。

 しかし、壁には見慣れたエレベーターのボタンがあるではないか。

「押してみよう」

「特に罠はねえな」

 ぼちっとエレベーターのボタンを押し込む。

 ちょうどエレベーター本体が止まっていたようで、壁に見えた扉が開く。

「ここまで来ておいてなんだけど、一度戻ろう」

「ん、ヤマダを案じてのことか? いかにも『いそう』だからな、この先」

「そそ、山田さんを危険な目に合わせるわけには」

「ヤマダだってここまできてお預けは嫌だろ、オレがヤマダを抱えて降りてきちまったんだ、オレが面倒みるぜ」 

 グルゲルが山田さんを護ることに集中するなら、大丈夫そうだけど……。

 肝心の本人の意見を聞いていない。

「いいの? 私もついて行って」

「ああ、いいぜ。戦いになりゃ、マツイが何とかしてくれる」

 山田さんに否はない様子。

 しかしだな、グルゲルの言葉で気が付いてしまった。彼が全力で護りに集中するってことは、俺と愉快な魔獣たちでバトルをこなさなきゃならんってことだ。

 1500メートルくらい降りてから、さらにエレベーターだろ。

 一体モンスターがどれだけ強くなってんだか想像もつかない。

「マ、マーモ」

『任せるモ。梨を寄越すモ』

「へいへい」

『しゃりしゃりしゃり』

 梨を掴ませたら、しゃりしゃりやり始めた。なんだか彼を見ていたらいけそうな気がしてきた。

「ミレイ、軽くなる魔法から身体能力強化に切り替えてもらえるか? 山田さんにもかけることができる?」

「うんー☆」

 山田さんの身体能力を強化してもらうと、万が一の時、彼女一人で対処できる可能性が格段にあがる。

 

 ◇◇◇

 

 到着した。長い長いエレベーターだったな……。

 さあて、お待ちかねの階層表示はっと。

≪*777階にいる*≫

 いえい、ラッキーセブンだー。なんて喜ぶと思った? んなわけないだろ!

 143階から600階層以上も進んでいる。やばいやばいやばい、やっぱり引き返していいかな?

「先に感知するか、待ってろ」

「う、うん」

 悲報、グルゲルに先をこされた。

「やばそうなら、即逃げる。その時はグルゲル、山田さんも連れて撤退してくれよ。俺はマーモを抱える」

「あいよ。んで、ここは通路になってるな。少し行くと広間に出る。広間はいくつかあるみたいだが、いるぜ、でかいのが」

「えー、いやだなあ……ここからでも相手の力量は分かる?」

「んー、多少骨が折れる程度じゃねえか」

 グルゲルの多少ほど安心感のないものはない。

「松井くん、無理しないでね」

 心配そうな山田さんの声に頷きつつ、マーモを小脇に抱え進み始める。

 

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