第76話 死に戻り、俺には耐えられん
でもま、気になるので聞いておこう。
「グルゲル、他の降臨組の移動速度はどんな感じなんだろう?」
「オレがマツイと進む時よりは速いな」
「そいつは意外だ、スカウトのグルゲルが一番速いと思ってたよ」
「どうだろうな、リーシアよりはオレの方が速いと思うが、マツイと進む時は抑えてるしな」
少なくとも俺が進む速度(羊騎乗)よりは速いと認識した。となると、休憩所を利用しつつ進んだら、荷物無しでもエレベーターまで進むことができそうだ。
明日には彼らも143階まで到達しそう。
「あ、山田さん、143階も100階と同じような罠があったから、ドクロを押して落とし穴から次の階へ進んだ方がいいかも、と榊君たちに伝えてもらえるかな」
「そうすんじゃねえかな。ウプサラには言ったぜ。罠解除できねえなら、ドクロを押せってな」
俺のお願いに対し、すでに対応済みだとグルゲルが返す。
鈴木君は100階と同じくドクロを見つけたら押して進みそうだし。
「そうだ。144階まで行ってから143階に戻ればボス部屋に入れるんだっけ」
「いけるんじゃねえか。落とし穴の道は一方通行になってたからな」
「山田さん、144階から降りて143階に向かいボスを倒すことができる、と伝えて欲しい」
「うん!」
山田さんが両手を握りしめ力強く頷きを返す。
ボス部屋をスルーするとエレベーターが使えなくなってしまうのだ。5階ごとにエレベーターがあるのなら一回スルーしてもいいが、40階層以上進んでエレベーターをスルーとなるともう一度進むのは大きな時間的ロスだ。100階まで戻ってくるだけでも相当な時間を喰う。マッピングしており、毎日の構造変化の前だったら最短距離で進んで戻ることができるけど、それでもダンジョンの階層は広いからなあ。
「スッキリしたか? んじゃ、ショートカットへ向かおうぜ」
「一日休んでから行こうよ……また長くなるかもしれないんだし」
「それもそうだな、明日の夜中でいいんだな?」
「うーん、山田さんもいるから17時頃にしよう。榊君たちと鉢合うようならいなくなるまで待機で」
既に休憩所を利用し二日間ダンジョンに潜っていたんだもの。過剰労働をした後は十分に休まなきゃ。
山田さんが榊君と鈴木君に情報を伝える時間も必要だし。
そうこうしていると「話は終わりだ」とばかりにグルゲルが立ち上がり、ひらひらと手を振る。
「そんじゃ、ま、オレは休むわ」
「何か忘れているような。あ、そうだ、『世界の書』のことはいいの?」
「あー、『世界の書』は一回で完結しているのか?」
「いや、その1、その2ってあったよ」
「2で終わりならいいんだが、断片的な情報はどうもなあ」
「全部揃ったとしても断片的な気がするけど……」
全く、「教えてくれ」と言ったり、あっさりと意見を翻したり、本当に気まぐれな奴だよこいつは。
当の本人はまごまごする俺の肩をポンと叩いて出て行ってしまった。
残された俺と山田さんはお互いに目を合わせ苦笑いする。
一拍置き、紅茶を口にした山田さんが花が咲くような笑顔でこう言った。
「松井くんは私に新しく分かったことを教えてくれようとしていたんだね」
「あ、うん、『死に戻り』のことがあるから、俺の知りえた情報は持って行ってもらいたいと思って」
「松井くんの気持ち、とてもよく分かるけど、やっぱり辛いね」
「『今回』で終わりにするつもりだよ。だけど、保険は必要だなって。俺こそごめん、君を利用するような形で」
ぶんぶんとこれでもかと首を左右に振る。目に涙をためながら。
彼女の辛さは俺が想像するよりずっと深刻なものだと思う。詳しく聞いてはいないが、ダンジョンで次々に犠牲者が出た回とか、ガルドが稼げなくて玉砕した回とかもあったようだ。もっとも、俺は毎回ゲーム開始前に死んでたみたいだけど……モブ以下とはぼっち冥利に尽きる。なんてことあるかああい。
それから彼女に100階から143階まで起こった出来事をかいつまんで伝える。
「ありがとう。グルゲルさんの説明でショートカットというものは理解できたんだけど、どうしてそう繋がったのかが分かったわ」
「うん、それで100階も143階もボスがいて、倒したら初回に限りだけど報酬が手に入るんだ」
「その中に『世界の書』があったのね」
「そそ、世界の書は俺以外の人が取得した場合はたぶんメニューに『世界の書』が出るのだと思う」
他の生徒はイルカを持っていないものな。イルカにインストールされるとかできないもの。
「今のところ世界の書はその2まであるのね?」
「うん、山田さんにも取得してもらえればと思ったのだけど、どっちのボスも遠距離攻撃してくるから危ない」
「そこまで考えていてくれたんだ。命大事に、だよね」
「グルゲルに護ってもらえればかなり安全度が増すけど、危ないは危ないから」
世界の書の中身を山田さんに伝えようとしたのだが、まだまだ続きがありそうだからその3まで集まったらグルゲルも交えて中身を確認することとした。
◇◇◇
そんなわけで翌日になりました。
山田さん、グルゲルと一緒にいざ143階へ。
「あー、グルゲル」
「なんだ?」
「隠し通路まで行くにはエレベーターの出口から進まなきゃならないじゃないか」
「んだな、移動するよりヤマダにはここで待っててもらった方がはええ」
一日経過しているのでもちろん罠もボスも復活している。
142階から来たことだけ頭にあって、次回来る時はエレベーターからってことを失念していた。
ま、さっくりとゴールデンのあいつを倒してこようか。
「ゴールデンおいしすぎだろ」
さくっと倒し、レベルが5もあがった。あと少しでレベルカンストだぜえ。
「浮かれているところアレだが、本題だ。老師に頼んでくれ」
「うん、マーモ、頼む」
『ブドウを寄越すモ』
食べてからじゃないと梃子でも動かんらしい。ボス討伐にぶおんぶおんしたから腹が減っているとのご様子。
もっしゃもっしゃ、しゃりしゃりとリンゴを食べているマーモットを眺めながら、山田さんとグルゲルの二人に最終確認をする。