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第73話 押し問答

 試しに行ってみと無理無理の押し問答を続けること5分。ようやくグルゲルが鉾を引いてくれた。

 彼女だけが降りればいいじゃないか、という最もな意見も言ったのだが、これまでで一番嫌そうな顔をされたんだよなあ。

「見つけたのはオマエだ。うまい果実はまずオマエが食べるもんだろ」

 ってな。

 この意味不明で前時代的な名誉とかいうものが何だってんだよ。戦国モノとかでよく見る「一番槍の誉」で滂沱の涙を流し感動する侍じゃないってんだよ。

 ゲーム的にも狩場を見つけたからといって、後から来たプレイヤーに狩場へ入ってくんなってのはナンセンスだ。

 とまあ、グルゲルと価値観の違いについて議論しても溝は埋まらないと思うので、苦笑いで「無理無理」返すだけだったのだが。

 彼女は別世界の人間だから、価値観が合わなくて当然だ。

「当たりをつけるためにも、ちょっと試したいことがあるから自動販売機を使いたい」

「あいよ、んじゃ、ここで待っててもいいか?」

「構わないけど、ダンジョンの中じゃ落ち着かなくないか……」

「行って戻る間に寝ておいた方がいいだろ。オレがついて行ったところで何ら役にたたねえ。なら、オレはさっきの疲労を回復させとく方がいい」

「あ、さっき構造を見てもらったもんな。今までで一番時間がかかったし」

「そういうこった」

 ひらひらと手を振り、ゴロンと横になるグルゲル。

 うっし、エレベーターで洋館に戻り、あれやこれを注文してから戻ろう。

 

 ◇◇◇

 

 そんなこんなで、再び143階である。

「戻ったよ」

「おー、早かったな」

「自室にいた時間はちょこっとだけなんだけどな……。エレベーターがもうちょっと速ければ、行って戻ってを繰り返せるんだけど」 

「カカカ、歩いて戻るよりいいだろ」

 そらまあそうだけど。100階以上進むエレベーターの速度じゃないって。

 人間すぐに欲が出るから仕方ないのだ。

 さあて、調査を始めるとしよう。

 取り出したるは釣り用のリールと電気ウキと呼ばれる光るウキが数個。光るウキはなるべく輝度の高いものを選んだ。

「これで、空洞の深さがどんなもんか調べようと思ってさ」

「糸と光ってるのは魔法のランタンみたいなもんか」

「まあ、そんなところ。複数つけてできるだけピカピカさせてっと」

「糸の長さは足りんのか?」

「やってみなきゃわからない」

「分かった。まあ、光を追うくらいならやるぜ」

 釣り糸は蛍光色リール巻タイプの一番長いものだ。このリール一つで300メートルもあるとのこと。

 念のため、あと5個、同じものを持ってきている。さすがに300メートルより深くなるとウキの光も見えなくなっちゃうかなあ。

 対応策として秘密兵器を二つ用意してきたけど、見えないかもしれない。その場合はグルゲルに期待ってことで。

「状況開始!」

『ブドウを寄越すモ』

 待ち時間が長くなりそうだから、マーモにはスイカを丸ごと渡してみた。

 お、皮ごと食べ始めた。水分が多いからべったべたになるだろうけど、外だし別に構わない。

 おっと、忘れてた。暗黒調査の必須アイテムを装備することを。

 工事用ヘルメット(ライト付き)を被って、空洞を照らす。

 おー、なんかエレベーターとか搬入用の空洞みたいだなあ。光を下に向けてみたが、もちろん底は見えない。

 いくぞお。

 光るウキをつけた釣り糸を放り込む。

 あ、あー。こいつはダメだ光量が足りん。50メートルくらいでもう光が見えなくなってきた。

 釣り糸を引き上げて、今度は秘密兵器の一つ、小型の懐中電灯をウキの代わりに取り付けて再び空洞に投入。

 100メートルでも全然余裕。いけるいける。

 しかし、200メートルいかないうちに見えなくなってきた。

「秘密兵器第二段を投入することになるとは」

 望遠暗視スコープ! こいつが真打だぜ。

 装着、そして、懐中電灯の明かりを捜索する。おっし、見える見える。

 300メートルに到達するも、まだ底までたどり着かなかった。

「東京タワーの高さは333メートルぅー」

「なんだ? そのタワー?」

「あー、現実逃避していただけだ。気にしないでくれ。もう少しで底かな?」

「いんや、あと半分くらいじゃねえかな」

 蛍光色リール巻タイプの予備を繋げ、さらに深く深く釣り糸を垂らしていく。

 途中で千切れそうだけど、その時はその時ってことで。

 悲報。二つ目のリールを使いきってもまだ底に着かない。そして、三つ目をつなげて投入。

 だいたい、三つ目の半分ちょっとくらいで指先に手ごたえがあった。

 光は周囲の様子を見るためだったのだが、底に着くかつかないかだけなら指先の感覚で分かる。

 望遠暗視スコープから底を覗き込んでみた。

「お、ただの床だな。針の筵とかにはなってなさそうだよ」

「罠もねえぞ」

「こんな深いところまで調べていたら、そら時間かかるよね」

「そらまあ、そうだな」

 深さは凡そ750メートルってところか。こんなところに飛び込むとかよく言ったな! グルゲル!

 降りれたとしても登ってくるのが無理だろ。空洞が深すぎる。

「満足したか? んじゃ行くか」

「待て待て待て、マジで待て」

「ん、念のため底を調べたんだろ? 底の床は平でなにもない、憂いはねえだろ」

「床は確かにそうだけど、降りるのが無理、登るのも無理」

「縄で縛って降りりゃいいんじゃねえのか?」

「あ、うん」

 腰にロープを装着し、じわじわと降りていく。理屈は分かるが、やったことのない俺に可能だろうか?

 なるべくならショートカットは使いたい。

 今回の調査で少なくとも750メートルは下に降りなきゃならんことが分かった。

 一階層辺り高さが10メートルとしたら、75階層分もショートカットできる。

 う、うーん、それなら歩いて75階層降りてもいいかなって気になってきたぞ。

「今日のところはもういい時間だし、もどろっか」

「煮え切らねえな、ま、それもいいか」

 拘りの少ないグルゲルが相手でよかったよ。調査を終えた俺たちは一旦洋館まで戻ることにしたのだった。

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