第67話 サーチ&デストロイ
既に100階は再構築されて罠もツインヘッドドラゴンも復活しているので、掃除から始めなきゃならん。
安全確保のために復活したツインヘッドドラゴンを仕留めならないのだけど、今回はグルゲルが協力してくれたので楽々倒すことができた。
いや、協力ではなくグルゲルがあっという間にツインヘッドドラゴンの左右の首を落とし終了したというのが正確なところ。
もう一つ、グルゲルも俺も二度目の討伐報酬を手に入れることはできず、ボス討伐は初回のみ報酬を得ることができることも判明する。ボス報酬は多くのガルドを獲得できるから、ボス周回だけやって稼げなくしているのかな? 100階まで到達できるプレイヤーならガルドには困ってないだろうけど……。
100階から99階へ向かう階段へ直接向かうと、榊君が踏んだ固まるトラップがあるので踏み込めない。
反対側から隠し通路を発見できるのか、と疑念を抱きながらもカラスに隠し通路を探してもらうことにした。
飛ぶでなくよちよち歩いて隠し通路を探し始めるカラスだったので、発見できたとしても時間がかかるかなあと思ったが、僅か数分で壁をクチバシでコツコツしはじめた。
「くああ」
「お、そこに隠し通路があるのかな? 解除してもらってもいい?」
一際激しくクチバシでコツコツしたら、通路が現れた。
「すげええ。感知・発見・解除全てできるじゃないか」
「まあ、これくらいなら当然だろ」
感動する俺に対し、やれやれと肩を竦めるグルゲル。
隠し通路を抜けて、アグニがハマった落とし穴から101階へ向かう。
発見できるかどうかを確かめるにも、今のところこの隠し通路しかないんだよな。
カラスの検証はこれで終わり。結果、求めていた能力は全て備えているから、新たな魔獣ガチャをする必要はないと判断した。
となると、先に進むとなるわけだ。
「これで終わりか?」
「他に隠された罠がある場所ってないからさ」
「あとはクアーロを信じて進むのか?」
「うん、途中宝箱でも試すつもりだけどね」
俺が罠感知のスキルを持っていた場合でも、カラスの能力でも話は同じ。
カラスの罠感知に賭けると決めたら、あとは一蓮托生だぜ。
俺の覚悟……というほど立派なものではない……ものを聞いたグルゲルがカカカカと大きな声を上げて笑い、俺の背中を叩く。
「ますます気に入ったぜ。初見のクアーロに乗るとか、な」
「グルゲルの元相棒なら間違いないだろ」
「おだててもなんもねえぞ。何も持ってねえからな」
「はは、別に何か求めているわけじゃないって」
さあて、そろそろ真っすぐの道も終わりだ。101階へ進むぜ。
◇◇◇
カラスが飛ばず、マーモは仁王立ちで動かない。ミレイに身体能力強化をかけてもらった俺は、カラスとマーモを小脇に抱え走ることになった。
絵面的に最悪だなこれ……。
「カラス、罠があったら『くああ』って鳴くんだぞ」
「くあ」
やる気ない鳴き声なカラスである。ふてぶてしいのがデフォなんだろうか、魔獣ってやつは。
ミレイを少しは見習えってんだよ。
「どうしたのー?」
「いやー、飛んでくれて助かる」
「んー、ここがいいなー☆」
「落ちないように気を付けてくれよ」
ミレイはちょこんと俺の右肩に腰かけた。結局全員俺が運ぶのかよ……。
「遊んでねえで、行くぞ」
「遊んでないってば!」
前を行くグルゲルが振り返らずにぼやく。
カラスの罠発見が終わったら帰ると思っていたのだが、彼女は俺たちについてきている。
他の英雄たちが踏破してから行くんじゃなかったのか?
「オマエの気配、生意気にもオレのことを案じてんのか?」
「いや、そんなわけでは。一緒に来てくれるなら助かるなあ、くらいしか思ってないって」
「ウプサラとリーシアの二人で歯が立たねえなら、いずれにしろ詰みだ。それでも逃げるだけならできるだろ」
「……俺をウプサラやアグニらと同じに考えないでくれ」
恐ろしいことを言いやがるぜ。
俺を降臨組と同じに考えないで欲しい。
俺の過大評価は置いておいて、グルゲルの言うことは理解できる。英雄二人がかりで戦っても勝てない相手でも全力で逃げることに集中すりゃ、何とかなるってことだろ。二人いて全力で逃げることに集中しても逃走不可なら、クリアは無理諦めろってやつだ。
俺の内心なぞ露知らず、俺の肩に手を伸ばたグルゲルは、さも上機嫌に俺の背中をバンバン叩く。
「老師にミレイ、それに一応クアーロまでいる。これほどの面子を揃えてまだ不満なのか?」
「ま、まあ、グルゲルもいるし」
「カカカ、罠がありゃ知らせるぜ」
「た、頼むよ」
などと会話を交わしているが、俺もグルゲルも足を止めていない。
その時、俺の背中にビビビと電流が走る。
「あの角のところにモンスターがいると思う」
「お、よく気が付いたな。慣れてきたか?」
「なるほど、この感覚か」
「何事も慣れだ、突っ込むぞ。でかい方は任せる」
「他人感知」のスキルは機能していることがグルゲルによって確認できて何より。感知したら背中にビビビと来る虫の知らせが来るのね、おっけえ把握。
俺の「他人感知」よりグルゲルの感知能力の方が高性能なのは予想通り。感知の専門家たるスカウトにぼっちを具現化した職「忍ぶ者」とは比べるまでもない。
「でかい方が何か分からないけど、カラスはしばらくその辺でのんびりしていてくれ、マーモ、接敵必中、投げるぞ」
『分かったモ、後でブドウを寄越すモ』
グルゲルに置いて行かれないように速度を上げる。ミレイの身体能力強化のおかげでまだ全力疾走じゃない。既に短距離走の全国出場クラス並の速度が出てんだけど……恐るべし、ミレイのバフ。
あっという間に曲がり角を折れ、しかと前を見据える。
片方は身長2メートル半ほどの緑の肌をした一つ目の人型。もう一方は巨大なレモンに手足が生えたようなコミカルさ抜群のモンスターだった。
表示名も見ず、敵が動き出す前にマーモを全力投球!
ぶおんぶおん。
そして、レモンはバラバラになった。
時を同じくして、一つ目の首が落ち、あっという間にサーチ&デストロイが終わる。