第59話 熟練度
残りの時間はマーモに餌をやりつつ、ミレイにはシステム内に入ってもらって……知恵の輪に精を出した。
こ、こいつやっぱなかなかうまくいかねえ。
「いっそ力技で引っこ抜いたらどうだ」
筋力が筋力が全てを解決するんだ!
ぐ、ぐぬぬ。ぐ、ぐぐぐぐ。
「ダメだ。パワーが足りない。レベルアップで筋力が増しているんじゃないのか?」
レベルと武器の熟練度があがったら、確実に火力はあがる。いや、武器もあるか。
ツインヘッドドラゴンに対してもバールで固い鱗をへこませることができるくらいなのだから。
「う、うーん、ゲーム的な筋力というか、攻撃力アップにつながる数値はあがっているが、実際の筋力はあがっていない?」
上がっているかもしれないけど、バールを振り回しまくった結果としての筋トレ効果による筋力アップ程度しかないんじゃないか?
「はあはあ……」
やはりだめだ。パワーがパワーが足りん。
かといってまともに知恵の輪をクリアするのは困難を極める。
「いや、信じろ。筋力を信じろ」
今日一番のパワーを小さな知恵の輪に込めた。
ピンポーン。
「松井くーん」
「あ……、ごめん、俺が迎えに行くって言ったのに」
やってきたのは山田さんである。さりげなく知恵の輪をぽいっとベッドの上へ投げ、平静を装う。
「ううん、まだ2分前だよー」
「いや、このままだときっと時間を過ぎちゃってたよ」
あたまをかきながら彼女の様子をちらちらと確認する。よっし、知恵の輪を力任せに解決させようとしていたことはバレていない。
「ちょっとだけ待ってね」
彼女にそう言い残し、マーモ用の果物をリュックに詰め込み……今回ミレイは出さない予定だから彼女の分はいいや。
「よっし、これで」
『梨を寄越すモ』
準備完了したってのに……リュックの口は閉めているから開くのもアレだし、新しく注文してしまえ。
梨を受け取ったマーモはいつものようにしゃりしゃりとしていた。
食べている彼は動かなくなる。山田さんが来てくれているってのに待たせるのはいただけない。
「松井くん、私がこの子を抱っこしていい?」
「果汁で汚れちゃうよ」
「へへ、大丈夫」
「う、うん」
嬉しそうにえへへ、なんてするものだから、彼女にマーモを任せ部屋を出る。
◇◇◇
やって参りました11階です。
山田さんと俺は羊に乗り、宝箱目指して進んでいる。彼女も俺も「忍び足」を習得しているのでモンスターは全てスルー出来るから宝箱だけに集中できるってもんだ。
「あ、そうか……」
「どうしたの?」
「あ、いや、毎回構造が変わるから宝箱の位置を毎回探さなきゃねって」
「あはは、そうだね。でも、そのおかげで毎日宝箱を開けることができるよね!」
「だなあ、面倒だけどいくらでも稼ぐことができるから干上がることもないから」
「助かるよね!」
んだんだ。あれ、俺、何を思い出して声を出したんだっけ。
思い出した、思い出したぞ。
ミレイにバフをかけてもらったら、羊に乗らずとも駆け足で羊並みの速度で移動できる。
と、ここまで考えて基本的なことを試していないことに気が付いた。
ミレイって俺以外にもバフをかけることができるのかな? 彼女に聞いてみないと分からんな。
いずれにしろ、11階だったら走るより羊の方が使い勝手がいい。乗ってるだけだから疲れなくて済む。
ミレイのバフ状態で走った場合、それほど疲れないのだけど、羊に乗っている方がなんか優雅だろ?
羊に乗ること10分ほどで最初の宝箱を発見であります。
羊から降り、宝箱の前にしゃがみ込む。俺の後ろから山田さんも宝箱を覗き込んでいる。
残りのマーモットはというと、宝箱の側面に仁王立ちし、ひくひくと鼻を揺らしていた。
『やるかモ?』
「いやいや、バラバラにしたら箱開けの修行にならん」
やる気なマーモットにはブドウを差し出し黙ってもらう。
さてと、待ちに待った宝箱を存分にしゃぶりつくしてやろうか。
ペタリと宝箱に手を当てる。
≪反応がありません≫
む、メッセージが出たぞ。こいつは罠発見の判定結果で間違いない。
11階の宝箱なら罠付きのはず。しかし、反応がないとメッセージが出る。
「よおし、倍プッシュだ」
≪反応がありません≫
≪反応がありません≫
……。何度かやったが、同じく反応がない。
本当に罠がないのか、熟練度が低すぎて反応がないのかのどっちかだ。
「あ、そうか。熟練度なら自室で上げることができるんだった」
「どうしたの?」
「さっき『罠発見』のスキルを取得してきたのだけど、全く反応がなくてね」
「そんなスキルがあるんだね!」
山田さんに「罠発見」スキルの取得方法を説明しつつも、宝箱から手を放し、手を置く作業を繰り返す。
やっぱり何も反応がない。
ディープダンジョンの熟練度アップの仕様って「失敗時」は上がらないんだっけ?
となると、この後やる罠解除についても失敗だとあがらないんだったらきつい。
「あ、今の熟練度を見りゃいいのか」
「熟練度を見てなかったの?」
「見てなかった……」
「チェック、チェックだね」
俺の唐突な発言にも山田さんは慣れたものだ。俺だったら絶対戸惑うところ、さすがのコミュ力で感心する。
むむむ、罠発見の熟練度が5まであがっているじゃないか。
結論、熟練度の失敗上げ可能である。このまま宝箱に触れて、離れてを繰り返せば熟練度カンストまで持って行くことが可能かもしれない。
山田さんを待たせているので、さすがにここで熟練度カンストまで持って行くことはやめておこう。
「罠発見の熟練度が上がってたよ」
「おお、ここで上げてく?」
「いや、簡単に上げることができるから、自室であげちゃうよ。スキル判定に失敗しても熟練度があがることで、罠があることは分かるから良しかなって」
「おおお、さすが松井くん、確かにそうだね!」
さすが山田さん、察しがいい。
罠発見の判定に失敗して熟練度があがるってことはだな、逆に言えば罠があったけど発見できないから熟練度があがったってことだろ。
つまり、罠があるから熟練度が上がるんだ。