第58話 感知系は転職してください
英雄の出身時代が分かったところで何か攻略に恩恵があるのかってっと、当初から分かっていた通り何もない。
知識欲が満たされてスッキリするくらいだな、うん。現にスッキリしたからね。
マーモは梨をしゃりしゃりし、山田さんはさも楽し気に彼の様子を見ている。自慢ではないが、俺は会話が続かない。そして、無言でも特に苦痛を感じないのは言うまでもないのだが、マーモがいるおかげで気まずい雰囲気にならずに済む。
いやあ、ダンジョンで頼りになり、山田さんとの語らいでも役に立つとはさすがSSRだぜ。最初、変な生物とか罰ゲームと思って正直すまなかった。
「あ、そうだ、松井くん、これからもソロで進むつもりなの?」
「んー、そのつもりだよ。護ったり護られたりな協力プレイだと却ってお互い危険になるんじゃないかって」
「私じゃどうやっても松井くんのお荷物になっちゃうなあ。松井くんの力になれるなら一緒に行きたかったんだけど、宝箱を開けるだけしかできないの」
「怪我した時に回復させてくれるじゃないか」
「あはは、気を遣ってくれているんだね。グルゲルさんとならうまくいったんだよね?」
「それは少し違うかなあ」
グルゲルと俺のコンビだと、俺が彼女に寄生プレイしているだけになる。彼女は俺がいなくともモンスターを殲滅できるし、俺にできない罠感知と罠解除を行うことができるから、俺がいることで攻略速度が落ちてしまう。
あ、そうか、山田さんも俺に対して同じような気持ちを持っていたから気が引ける、といったんだな。我が身を振り返り、人の気持ちを察することができるとは、意外だった。
実際問題、山田さんにモンスターの攻撃がいったとして護ることは難しい。
俺の戦い方は回避特化で、攻撃を防ぐ手立てを持っていない。なので彼女と一緒に行動することは彼女にとって危険極まりないんだ。
グルゲルと俺のコンビはグルゲルに何らメリットはないが、山田さんと俺の場合は俺にもメリットがある。
パーティにヒーラーがいるのといないじゃ、安全度が格段に違うだろ? つまりそういうことだ。
「すごいなあ、松井くんは。色んなことをいっぱい考えて動いているんだね」
「あ、ごめん、ぼっち……一人で考え込むことに慣れているから、つい山田さんの前でもやってしまう」
言葉通り、誰かがいたとしても人がいることなど忘れて自分の中に入り込んでしまう。そもそもほぼぼっちタイムだから人を気にしてなんてことをしないのだ。
つい山田さんの前で「ぼっちだからさ」とか言いそうになった。
そんな後ろ暗い俺の心のうちなど露知らぬ山田さんは朗らかに笑う。
「あはは。私もよくぼーっとしちゃうから、気にしなくていいよ!」
「ぼーっとするのは俺も得意技だよ」
彼女につられて俺もぎこちなく笑う。普段口角が動くことはあまりないのでひくひくと頬がつらないか心配だよ。
「あ、考え込んでいたのは私がお荷物になる、と言ってたことだったら気にしないでね」
「ううん、違うよ」
山田さんのことがきっかけでパーティの考察をしていたことは確かだが、彼女がお荷物になるなんてことは微塵も考えていない。
単に俺のスタイルと相性が合わないから、彼女を危険に晒してしまう。
「私だけが、な状態でも気にしないでね! 協力できることならやっちゃうよ、松井くんにはいっぱい助けてもらっているもの」
「あ……え、えっと、手伝ってもらえると助かることが一つ」
「おお、言ってみて! あ、でもえっちなことはダメだよ」
「またそれを……」
「様式美ってやつで」
「以前、宝箱を開けた時があったじゃない。今度は俺が宝箱を開けるのに付き合ってくれないかなあって」
万が一、宝箱の罠が発動した時に彼女に怪我を直してもらいたい、という一方的な申し出であった。
きょとんとした彼女はにこおっとほほ笑み返答してくる。
「もちろん! 松井くんが動くのは夜中だよね?」
「い、いや、今から一時間後くらいからどうかな? 今日は十分寝たし、山田さんもまだ起きている時間かなって」
「うんー。準備してくるね!」
「ありがとう、時間になったら俺からベルを鳴らすよ」
山田さんと別れ、ドアを閉めようとしたところで息を切らした吉田君がやって来た。
彼からどのような武器にするか指定が無かったから時間がかかったと聞いて、平謝りする。
吉田君も調べて分かったことらしいのだけど、一度作った武器は素材の状態に戻すことができるのだって。なので、後から他の武器種に変更することも可能とのこと。素材に戻すことができるってのを調べるのに時間がかかったんだな、きっと。
そして、彼から受け取った武器はアダマン鉱石製の「バール」である。
今持っているバールより10センチほど長くなっていて、振ってみたらこちらの方が使いやすいと実感した。
いやあ、やはり使い慣れた武器がいい。バール最高だぜ。
吉田君にお礼を言って、部屋に引っ込むとさっそく準備を開始する。
箱開けだけじゃなく、100階以降対策にはトラップを突破する力が必要だ。困った時にはイルカに頼るに限る。
「イルカ、気配感知とか罠感知みたいなスキルってある?」
「感知系は転職してください」
「う、ううむ。グルゲルみたいにとまではいかずとも、あ、そうだ、罠発見みたいなスキルならどう?」
「発見系スキルは触れた時にびびびっときます」
びびびっとくるのは分かったから……わざと肝心なことを避けているだろ。
「転職しなくても取得できるの?」
「できます。トランプで宣言したカードをめくればいいです」
おっけおっけ、またマニアックな習得方法だな。
感知と発見は別スキルってことが分かったのも収穫だよ。触れずとも分かるのが感知、触れて探るのが発見ね、よっし完璧に理解した。
トランプを準備して――。
「ハートの5!」
ぺろり、とカードを裏返す。いつか当たるさ。
50回目でヒットし、「罠発見」スキルを習得することができた。
グルゲルは俺の習得した「罠発見」の上位スキルを持ってんだろうなあ。更には感知まで。
「グルゲルで思い出した。『世界の書』を見せるって約束したんだった」
イルカに吸い込まれたから見せることはできんのだよな……イルカが勝手に語るモードを聞いてもらえばいいか。