第57話 サンドイッチうめえ
「松井くんが起きる頃にと思って、だったから、軽食でごめんね」
「ううん、ボリュームあると思う、それにうまい」
山田さんが作ってきてくれたメニューはサンドイッチだった。色とりどりのサンドイッチは見た目にも華やかで、実際一つつまんでみたらお味もグッド。
サンドイッチのバリエーションって全然思いつかないけど、カツサンド、タマゴサンド……以外にもいろいろあるんだな。
甘いのもうまいっす。
「ブルーベリージャムとチーズ、こいつが案外合うね」
「でしょでしょー」
などと山田さんときゃっきゃしてしまった。お、俺らしくないがたまにはいいだろ、へ、へへ。
油断するとさーせんとか言いながら気持ち悪い顔をしそうだから注意しなきゃ。
お腹も膨れたところで、俺の方から話を切り出す。
「山田さん、全部お任せで引っ込んじゃってごめん」
「ううん、100階まで進んで、榊君のところまで私を案内してくれて、鈴木君の捜索にまで行ってくれたんだもの」
「正直なところ、鈴木君のことも急がなきゃって気持ちじゃなくて、グルゲルがいるうちに100階のことを調べておきたかったんだ」
「あはは、優しい松井くんらしいね」
優しい発言は全くなかったんだけど、なんでそんなご機嫌そうに微笑んでいるのか理解できん。
俺は鈴木君のことより、解散しグルゲルがいなくなる前に100階に向かう階段に残った罠がないか調べたかっただけなんだぞ。
人を助けたい気持ちより、自分の欲望優先、どこに優しい要素があったのだろうか。
「あ、そ、それと」
「ペットのこと、喋ってもよかったんだよね?」
「うん、もちろんだよ。榊君たちも色々疑問があっただろうし」
「何を開示してもよくって、が難しかったから、ええと、説明した内容はね」
マーモについては真理を引いた人だけが持つことができるペットだと説明してくれたようだ。
彼女は実際にマーモが戦うところを見たことがないから詳しく説明しようにも説明しようがないか。俺としては特に情報開示に対し抵抗があるわけじゃない。
そもそも、イルカからの情報が元だし、ガチャチケットの追加を山田さんから頂いているという他力本願ぶりだからね。
他人の取った杵柄を秘密にしようとかは思わないって。
俺が100階に到達したことに対しては特に榊君も神崎君も不思議には思っていなかったらしい。
加えて、榊君らは身を持って罠のことを知っていたから、罠を外して榊君を助けたのだろうと想像がつく。
榊君はグルゲルのことを知っているから、罠を外したのはグルゲルだと想像はつくし、100階までも彼女の力で進むことができると知っているだろうからね。
「俺もグルゲルも山田さんに何か伝えていたわけじゃなかったから、大変だったよね」
「降臨組はいろんなことを知っているみたいだから、私が説明することはそれほどなかったわ」
「グルゲルはいろんなことを知っていたなあ。あ、でも一つ気になることがあった」
「え、どんなこと?」
「あ、いや、知ったところでどうってことはないんだけど、クリアに必要ありそうな情報でもないし」
「ううん、世界の成り立ちとかディープダンジョンとは何か、って情報はワクワクしない!?」
そ、そうなんだ。
先ほどイルカへの質問を打ちきり、奴が聞いてもないのに念仏のように語り続けていたのを放置していたなんてこと言えやしねえ。
「え、ええとだね、こいつのことで一つ」
むんずとマーモットを掴む。肉厚がすごくてむにゅんとしている。
「可愛い」
つんつんと彼のおなかをつっつく山田さん。
可愛いと言えば、マーモットじゃなく、ミレイはどこに行ったんだろ。さっきまでキッチン辺りにいたんだけど、話がややこしくなるからこのまま見えないままの方が望ましいか。彼女をシステム内にしまっておくのを忘れたのだよね。今更隠すのもあれだし。
「そ、その、グルゲル……高山さんはマーモのことを知っていたようなのだけど、榊君と湊さんは知らないようだったんだ」
「グルゲルさんはウプサラさんやリーシアさんより物知りだったのかな?」
「どうかなあ、マーモってこう見えて武道の達人らしいんだ」
「すごい、マーモくん、すごいぞお」
山田さんがマーモのたぷんとした顎をなでなですると、彼はぺしっと前足で彼女の手を払う。
「こら」と注意しようとするより先に彼女は「かわいいいいい」と喜んでいるじゃないか。意味が分からな過ぎて俺はこれ以上触れるのをやめた。
「たとえばだけど、過去か同時代に武道の達人がいたとして、ウプサラの方がその辺についてはグルゲルより詳しそうじゃない?」
「確かに……言われてみればそうかも」
「それでさ、高山さんはダンジョンに出かけるまでは高山さんだったんだよね。ええと」
「高山さんがグルゲルのことを榊君たちに伝えていたかってことだよね? ざっとだけど、グルゲルのことを高山さんから私も聞いたよ」
やはりそうか。これでつじつまが合い、すっきりした。
一人納得しているといつのまにか山田さんが身を乗り出し、息がかかる至近距離に迫っているじゃないか。
「お、うお」
「あ、戻ってきた? イルカくん? と何かしていたのかな?」
「いや、自分の考えがまとまったから、え、ええと、グルゲル達ってそれぞれ生きていた時代が違うんじゃないかな?」
「あ! 確かにあり得るかも! アグニさん、グルゲルさん、そしてウプサラさんとリーシアさんがそれぞれ違う時代の英雄で呼び寄せられた、と考えたわけだね!」
彼らが死んでからディープダンジョンに召喚されたのか、生きているうちに召喚されたのかは不明。少なくとも、功成り名遂げた後であることは確かだ。
俺が知る英雄の情報は多くない。一番接しているのがグルゲルで他はほぼ会話したことがないに等しいのだが、交流したのがグルゲルだったので気が付けた。
英雄の生きた時代が異なる仮設があっているとすれば、四人の中で一番遅い時代の出身はグルゲルで間違いない。
彼女は他の全員を知っていた。攻略組の初回の会談で他三人の情報を聞いたからかもしれないけど、彼女はリーシアの性格を嫌がっていただろ。
リーシアの人となりは、会談で知りえる情報じゃないと思うんだよね。わざわざ、この子、こんな性格なんです、なんてことを語らず、この英雄はこんな能力を持っている、ってことを話し合うんじゃないか? そもそも、初期の初期はまだ本人たちが英雄と語らう時間なんてなかったわけだから、性格のことまで他の人に伝えるほどには分からんだろ。