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第45話 大きな影と小さな影

「そこ、気をつけろ」

「え、ええ」

 グルゲルが触れた壁と階段を挟んで反対側の壁の一部がゴゴゴゴとスライドしていく。

 まさかの隠し扉に唖然とした。

「オマエに言われてなかったら素通りしていたぜ」

「仕掛けってやっぱり気が付かないものなの?」

「こいつは結構ちゃんと見ねえと分からんな」

「グルゲルで意識して注意深く調べないと無理だったら……」

 ソロで100階まで来ていたら、とゾッとした。まさかの階段途中で別の道があるなんて青天の霹靂ってやつだぜ。

 油断させといて致命的な罠を仕掛けてくるのがディープダンジョンである。

 ほんま、許さんぞ。ディープダンジョンを作った奴。

 横道を素通りして進むとウプサラでも動けなくなってしまうほどの何かがある。何があるのか確かめたいなんて思わないぞ。

 確定した何かやばいのを見に行くくらいなら、横道を行く。

「グルゲル、悪いが先行してもらえるか」

「おうよ」

 この先も嫌らしい罠が待ち受けているかもしれない。スカウトのグルゲルで回避できないなら誰だって無理だ。

 ディープダンジョンはクリアできないようにはできていない。

 つまりだな、探知レベル最高のグルゲルと一緒なら大船に乗った気でいていいってことさ。ははははは。

 他力本願ここに極まる。ぼっちとしてあるまじき考えだが、手のひらくるくるは俺のお家芸なのさ。

 高笑いなんぞあげたらきっと足元をすくわれる。無事切り抜けてから笑うべし。

 

 横道は人一人がやっと通ることができるくらいの横幅しかなかった。

 高さはそれなりであるものの、ダンジョンのフロアよりは低い。羊に騎乗していたらつっかえそうなくらいと言えば分かりやすいかも。

 カチッ。

 乾いたスイッチ音が耳に届く。

「罠のオンパレードだな」

「ひいい。今の音は罠を解除したの?」

「そんなところだ。お、まだある、動くなよ」

「息もとめる勢いで止まるよ」

 曲がりくねった細道をしばし進むと出口らしき「扉」があった。

 ここにきて追加のギミック「扉」を登場させるとは、嫌らしいったらありゃしねえ。

 扉は鍵がかかっていてそのままじゃ開かないとグルゲルが教えてくれた。

「ほい、開いたぜ。ついでに罠も外した」

「二段構えとはご丁寧なことで」

 開いた口が塞がらんわ。

 グルゲルさまさまで狭い道を通過し、広場に出た。

 

 広い、広すぎる。視界の先に壁が見えないほど広い。

「これ、ひょっとしてフロア全体に通路も壁もないんじゃ」

「ちっと周囲を頼む」

 こちらが肯定もしていないってのにグルゲルは俺に背を向けドカッと座り込む。

 中身がグルゲルなので忘れがちだが、彼女の肉体は高山さんのものだ。

 ロングスカートセーラ服の女子高生があぐらをかいて座り込むのはちょっと……好きかもしれない。

 目を閉じた彼女は深い集中状態にあるようで、完全に無防備になっている。

 彼女の感知能力は最高レベルにあるが、今は大きな音を立てても気が付かないかもしれない。

 頼りない俺に全幅の信頼を置いてくれているのだろうか? 

 いや、俺じゃなくて足元にいる蛍光灯をもったもっふもふを信じているんだな。

 いやいや、マーモに指示を出すのは俺だし。彼女は一緒に探索するからに頼りなくても信じる信条を持っているのかもしれない。

 これが歴戦の英雄ってやつか。見習うべきところは見習わないとな。俺もグルゲルを信じるぜ。

「マーモ、頼む」

『危険はないモ』

 マーモに蛍光灯を構えてもらって待つことしばし。時間にして30秒くらいってところか。

 ゆっくりと立ち上がったグルゲルがぐるりと首を回す。

 しかし、いつもの不適な笑みはなく、心底嫌そうに顔をゆがめた。

「まずい状況なの?」

「いんや、『ここは』安全だぜ。んで、二つの影、踏むと発動する何か、だな」

「距離はどれくらい?」

「んだな、でかい方がオマエがゆっくり歩いて5分くらいかそこらだぜ。もう一つは反対方向に同じくらいかねえ」

 むむむ。でかい方ってのはモンスターぽいな。もう一体はひょっとしたら榊君ウプサラ

 俺の心を読んだかのようにグルゲルがぼやく。

「やめとけよ、もう一つはオマエの考え通り、ウプサラに違いねえ。他に100階まで来た奴はいねえんだろ」

「攻略組の三人は榊君を残して撤退したって聞いたし、他に100階まで行けそうなのはアグニの鈴木君くらい?」

「アグニはまだこの階まで来てねえな。あいつはゆっくりとのし歩くのが美徳らしいからな」

「忍び足を習得した真理か神器もなくなはいけど……忍び足の壁があるから……ここまでは来てないだろうなあ」

 と、ここまで考えて神器持ちが到達している可能性はない、と確信した。

 まず神崎君以外の神器持ちは1階からスタートとなる。各自初期レベルが異なり、忍び足の一枠を確保するまで一階で頑張らないといけない。

 忍び足さえとれば悠々と50階まで進むことができるはず。なんせ生産系特化のヘパイストスの槌でも俺のバールより火力が高い。

 俺でもモンスターを一撃で進めるのだから、神器なら何を持っていても一発で進めるに違いない。

 しかし、初期の頃の俺を悩ませた距離の壁がある。ダンジョンは無駄に広く、毎回構造が変わるから進むのがとっても大変なんだよね。

 神器持ちは魔獣ガチャが使用不可だから乗り物を手に入れることができないだろ。

 つまり、距離的に100階まで進んでくることは難しい。

 もう一方の真理なら俺が進めたんだ。到達できる可能性が多分にある。

 色々考えを巡らせたが、99%の確率で榊君だろうな。

「んで、オマエの選択はどうだ?」

「う、うーん、グルゲルのオススメはある?」

「ここに来れたのはオマエの意見があったからこそだろ、俺は分かったことをオマエに伝える」

「お、おう」

 伝えるといって黙ってしまわれると困る。既に伝えたってことよね?

 まとめるほどの情報はないが一応……。100階は一部屋になっており、とても広い。

 そんで、大きな影と小さな影がいる。小さな影は固まっているという噂の榊君。

 他に留意点として踏むと発動する何かがある。オススメしないとのグルゲルの発言から、榊君のいる方に進むと罠を踏む。

 いやこれ、考えるまでもないだろ。

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