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第42話 投げるモ

「強化の様子を確かめたのか? 老師ならブレスなんぞ無効化しちまうぞ」

「え、あのブレスは大きすぎるって」

 俺としてはやっとの思いでレッサードラゴンとの闘いを凌いだってのに、グルゲルは呑気なものだ。

 まるで俺が散歩から帰ってきたかのような軽さである。

「おー、次が来るぞ、行ってこいー」

「こ、交代で」

「俺はもう突破している階なんだがなあ。試しに行ってみたいって言ったのはオマエだろ」

「そこをなんとか」

 頼んでみるものだ。でかい黄緑色のイモムシをグルゲルが仕留めてくれた。

 しかし、その代償として彼は「さあ、95階へ行くぜ」なんて言いやがる。

「ピンチの時は助けて欲しい」

「慎重過ぎるだろ、その顔やめろ」

「表示色が青色じゃなきゃ安心できないんだよ」

「なんじゃそら」

 おや、モンスターの名前が見えていないと? 中身がグルゲルだが、高山さんはディープダンジョンのプレイヤーだろ。

 見えないわけがないんだけど、なんでだ? 気になった俺は疑問を彼女にぶつける。

「モンスターを見たら、頭の上に名前が見えるだろ」

「見えねえが、ああ、カンザキだったか、そいつが表示やらなんやら言ってたな」

「あ、納得。ビューの切り替えをしていないんだな」

「ビューってやつをやらねえでも支障はないぜ」

 そうそう、スマートフォンと視界で表示の切り替えをできるんだった。

 スマートフォン表示の方が便利な時もあるから、今でも表示の切り替えを使っている。

 グルゲルは表示名を見なくてもモンスターの名前だけじゃなく特徴まで知っている様子だった。

「んー、グルゲルってゲームのキャラにしては随分と作り込んでいるな」

 しまったと思ったが口に出てしまっているじゃないかよ!

 常にぼっちの俺は自分の考えを呟くことがよくある。俺が呟いたところで聞いている人なんていないから、気にする必要もないのだ。

 今はグルゲルが目の前にいるってのに、習慣とは怖いぜ。

 自分がゲームのキャラだと暴言を受けた形になったグルゲルはというと、顎に手をあて口角をあげっち、と音を鳴らしていた。

 あ、お怒りだよな。

「ゲームってなんだ? よくわからん」 

「ご、ごめんなさい、え? あ、ええと、グルゲルはどこからきたの?」

 彼の反応はゲームのキャラにしてはリアル過ぎる。ゲームのキャラにしても、リアルの人物の人格と記憶を含め全てコピーした存在じゃなきゃ説明がつかない。

 彼女は今も人間と変わらぬ仕草で首を振り、頭を抱えている。

「正直分からん。気が付いたらいた。体もねえし、俺が聞きてえよ」

「グルゲルの世界にはダンジョンにいるようなモンスターやらがいて、スカウトとかがいる世界だったの?」

「概ねそんなところだ。もうちっと情報を集めねえと何とも言えねえ。オマエの知っている情報と合わせりゃ理解が進むかもしれねえ」

「む、むむ。俺もそもそもの話やダンジョンってなんだ、ってことは知りたい。無事帰還した後に話をさせて欲しい」

 ぼっちの俺としたことが、真相を知れるかもしれないとなり勢いのまま彼女と会話を交わすことをお願いしてしまった。

 対する彼女は「ああ、別にいいぜ」と快諾してくれたのである。

「俺としてもハッキリさせたいところだからな」

「アグニやリーシアはともかくウプサラならちゃんと意見を交わせるんじゃ?」

「リーシアがいねえならいいんだが……」

「そ、そっか。誰でも苦手な人はいるよね」

 あ、もちろん俺とグルゲルとウプサラ(榊君)で談笑しようなんて思ってない。

 グルゲルがウプサラから情報を得ることができたなら一石二鳥……いや、棚からぼた餅だなあと。

 人には相性ってのがあるから、ウプサラを含めて情報を集めることは諦めようぞ。

 だったら俺が榊君とコンタクトを取りゃいいじゃいかって考えるのは至極当然だ。しかし……以下略。

 おっと、雑談していたら本来の目的を忘れそうになっていた。会話は脳内リソースの多くを消費してしまうから仕方ないね。

「レベルを上げて、と思ってたけど95階から100階まで移動となると相当時間がかかるだろうから、あと二、三回戦ったら移動でいいかな」

「んだな。オマエの進む速度次第だ」

「徒歩だよな……」

「すまん、95階からはミレイとライディングシープを入れ替えで進んでくれねえか?」

「羊に乗ったらグルゲルとはぐれてしまうじゃないか、それに羊で進みながらだと不用意のモンスターの反応する距離に踏み込んでしまう」

 何言ってんだ? とばかりにグルゲルが大げさに首を傾けっちっと舌打ちする。

「ライディングシープを全力で走らせるわけじゃねえだろ。ダンジョンの中じゃ気持ちよく進めねえし」

「羊と同程度の速度でずっと進めるの?」

「それくらいなら疲れもしねえ。あと、オレが誘ったから、索敵はオレがやるから心配すんな」

「お、おう……それなら100階まで進めそうだ」

 羊を使えるとなると、余裕を見て7、8戦は行ける。

 95階から乗るなら今から羊に乗ってもいいか、いやダメだ。グルゲルが索敵してくれるのは95階に行ってからだよな。

「と、ともかく、モンスターを叩きに行くよ」

「おうよ」

 モンスターと戦っている時間より会話している時間の方が長いという俺らしくない展開であったが、ようやくモンスター探索を再開する。


「いたぞ、レッサードラゴンだ」

『先手必勝だモ』

「おう、そいやあああ」

 ミレイに筋力強化ができるか聞いてみたところ、できるとのことだったので試しに強化してもらったらとんでもなくパワーがみなぎったんだよ。

 そんでだな、30メートル以上離れた位置にいるレッサードラゴンに向けてマーモを遠投することもできちゃうんだよ。

 ソフトボールのように飛んでいくマーモ。

 レッサードラゴンの前で着地し――。

 ぶおんぶおん。

 蛍光灯が迸り、レッサードラゴンがバラバラになった。

 敵が一体かつ直線状であれば、この作戦で突破できる。曲がり角だと角を曲がったところがモンスターの反応範囲だと即攻撃してくるから回避からはじめなきゃならない。

 二体以上の時もマーモが二対一になっちゃうから、相手の出方を見て慎重に戦わなきゃ、になる。


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