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第40話 俺の必殺技が無効だと……

 エレベーターはゆっくりと、ゆっくりと、95階へ向かっていた。いつもながら遅い。

 カカカと独特のグルゲルの笑い声だけが響くエレベーターの狭い空間から早く出たい。

「マツイ、隠密は使わねえぞ」

「隠密? 忍び足みたいなもの?」

「忍び足……あー、隠密とにたような技能か。マツイはまだ80階に到達してねえのか?」

「う、うん」

 なんだこの不穏な会話の流れ、嫌な予感しかしないぞ。固唾を飲み、彼女の言葉の続きを待つ。

「80階からは隠密がきかねえ。忍び足も似たようなもんじゃねえか」

「モンスターの表示色が青だったら今のところ忍び足の判定に成功してたんだけど」

「表示色? ああ、ディープダンジョンってやつがもたらす専用の視界か。判定やら表示色やらは分からんが、80階以降のモンスターは『見える』」

「ひええ。恐れていたことが80階で起こるのか」

 降臨の中の人である英雄たちはゲーム的なものは見えないらしい。

 見えずともディープダンジョンの仕様は誰しもに適用される。山田さん情報によると降臨を引いた人のレベルは255だったはず。

 つまり、レベル255でも隠密の判定に失敗し、モンスターが襲ってくるってわけだ。

 グルゲルの説明からすると、判定に失敗するわけじゃなく、隠密無効になるってのが正しい。

「勝手が違うかもしれねえな。90階から試してみっか?」

「5階ごとに様子を見たい。今のところ75階まで進んでいるから80階に行きたい」

「あいよ。途中変更できねえから、95階についてから80階に行くぜ」

「うん」

 しれっとお願いしてみたら、付き合ってくれるそうだ。

 忍び足がきかないことが確定しているのなら、グルゲルの同行がこれほど心強いことはない。

 彼女は既に95階までソロで進んでいるわけだし、同じプレイヤーだったらマーモと異なりモンスターの的も増える。

「80階では隠密を使ってもらいたい」

「あいよ。まあ、モンスターが動かねえ方が楽だからな」

 チーン。

 95階を経由して80階に到着した。

「従魔は老師とライディングシープでいいのか?」

「グルゲルと一緒なら、羊に乗らない方が速度が合うかな? 魔獣を変えるにしてもどれがいいやら」

「何を従属させてんだ?」

「ええと」

 エレベーター前の安全エリアで羊を仕舞って、出せる魔獣を順に出していく。

 グルゲルは俺の出す魔獣について全部どんな特徴を持っているか知っていたのでとても為になった。

 いやあ、イルカと違ってちゃんと特徴を教えてくれるので大助かりだよ。

「『器用なカラス』がいいか。罠外しができるんだよね?」

「必要ねえ。宝箱なら俺がやる。スカウトだって言っただろ」

 スカウトのことは以前イルカに聞いたものの、職業の話題になってスカウトそのものは聞いてなかったんだよね。

 どうやら、スカウトは盗賊? ぽい職業だと思われる。罠や索敵に優れるとかその辺だろう。

「スカウトすげえ。だったら、牛か」

「それならライディングシープとそう変わらねえ。牛は戦闘能力があるが、降りて戦うんだろ?」

 む、むむむ。

 牛は多少の戦闘能力があるらしいが、羊より移動速度が遅いのだって。馬は羊と変わらないとのこと。

 カラスは罠を外すことができるので重宝するが、最高ランクのスカウトであるグルゲルがいるので今は不要。

 悩む俺にグルゲルがアドバイスをくれた。

「ミレイでいいんじゃねえか?」

「ミレイって、ああ、妖精か」

「マツイの指示を守るかは分からんが、ミレイは気まぐれと聞く」

「うわあ……しばらく使ってみて羊とチェンジするか考えるか」

 らぶりーきゅーとな妖精……ええと、名前はミレイだっけ。

 さっきグルゲルに見せるために出したのだが、ちょっとばかし苦手なんだよな。性能じゃあなくて、こう、出せば分かるさ。

 羊を引っ込めて、妖精を場に出現させる。

 キラキラキラと星のエフェクトが大量に出てきて、クルクルとらせん状に回転しはじめた。

 ぽんと、音が鳴って緑の長い髪、裾がギザギザになったクリーム色のワンピースをまとった幼女が実体化する。

 身長は俺の肘から手首くらいで、羽や翼はないが宙に浮いていた。手には小さな魔法少女的なステッキを持っていて、彼女のラブリーさにピッタリだ。

「はーい☆ ミレイだよー。ミレイにしてくれたんだね、マスター」

「う、うん」

 妖精ミレイがステッキを振るい花が咲くような笑顔で挨拶をする。振ったステッキからなんかキラキラしたのが出ていた。

 表示名の通り、らぶりーできゅーとな妖精で、イルカのように毒舌でもなさそうだ。

 マーモとも違って餌以外の話もできそうだし、良い魔獣じゃないか。

 ――なんて山田さんなら思うんだろうな。

 俺にとって妖精は精神的にきっついって。陽のオーラ出し過ぎで、ニフラムされてしまいそうだよ。

 だがしかし、彼女に何ができるのかを聞かねばならない。あ、イルカに聞いても教えてくれるんじゃね?

 マーモの装備のことはイルカが教えてくれたよね。

「イルカ、妖精の装備や特技を教えて」

「妖精じゃなくて、ミレイだよ☆」

 ぐううおお、カットインしてきた。イルカはイルカで妖精じゃない、ミレイが回答したと判断したらしくだんまりを決め込んでいる。

 ぜんっぜん回答していないからな。

 しゃあねえ、このまま彼女に聞くか。

「ミレイ、君の装備を用意しようと思っているんだけど、どんなものがいいのかな?」

「これでいいよー☆」

 ステッキを持っているから問題ないらしい。用意しなくて済むならそれにこしたことはないな。

「ミレイがお手伝いできることは?」

「マスターを強くできるー。はやくなったりー。他にもできるよ☆」

 ミレイは身体能力を強化する能力バフを持っているのか。こいつはすげえ。

 ミレイに強化してもらえば、俺の回避能力も向上するはず。

「お、おお。バフ使いとな」

「んー、バフっておいしいのー?」

「おいしいよお。ミレイは何食べるの?」

「あまいのがいいなー」

 妖精だから花の蜜とか食べるのだろうか。彼女の食事は自室に帰ってから食品を並べて選んでもらうとしよう。


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