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第38話 取り残された?

「リンゴおいしい?」

『しゃりしゃりしゃり』

「……返事がない、ただのしかばねの」

『梨も寄越すモ』

 マーモはマーモットなので人間のように表情が変わることがないから、おいしそうに食べているとかを推し量ることができないんだ。

 彼は自らどんな果物が食べたいか指定することが多い。なので、ただ食べるだけじゃなくて味わって食べているんじゃないかと思ったのだよ。

 そんで聞いてみたら、この態度である。

 自室にいるときは自販機が使えるから、どんな果物でも用意できるので、何でも言ってくれ。

 って感じなのだけど、マーモの要求する果物の種類って今のところあまりなくて、ストックで事足りている。

 マーモが要求していない果物を与えたらどうなるんだろ。食べなきゃ俺が食べればいいや。

「じゃじゃーん、いろいろ準備しました」

 得意気にテーブルの上へ、ドラゴンフルーツ・みかん・桃・マンゴー・柿・イチゴを並べてみた。

 どやあ、この中でお気に入りはあるかあ。

 ピンポーン。

 変なポーズをとっていた時に部屋の呼び鈴が鳴ったからびくううっと肩が上がる。

 ぼっちの俺に訪問だと? 自分で言うのもなんだが、気さくに俺へ話かけてくれる山田さんや吉田君は「気遣い」をしてくれているはず。

 彼らはよほどの緊急の用がない限り、俺に接触するのを避けてくれていると思う。

 ほら、吉田君が鈴木君のことで相談があった時に言ってたじゃない「ソロ志向なのにごめん」って。

 となれば、このピンポーンは緊急事態に違いない。そんな中、テーブルに色とりどりの果物が並べられている……のはそぐわないかもしれん。

 だがしかし、お片付けをしている隙はねえ!

 ガチャリ。

 扉を開けると山田さんと吉田君の二人が立っていた。

 二人揃ってとは何事!?

「松井君、突然ごめん」

「わ、私も」

 焦った様子の二人に困惑しつつもなかに入ってもらうように応じる。

「一体何が? と、とりあえず入って」

 テーブル一杯に並んだ果物と中央に鎮座するマーモットに吉田君はぎょっとしていたが、山田さんは手を合わせて喜んでいた。

「この子が全部これ食べるの?」

「いんや、いつも同じ果物ばかり要求してくるから他のも食べるのか試してみようと思って」

「これ、何だろ。見たことないかも」

「それはドラゴンフルーツってやつみたい。果実を食べるぽいから切り分けないとマーモも食べれなさそう」

 などと山田さんと会話しつつ、紅茶を淹れ果物をよけて、カップを置く。

 ついでにマーモもむんずと掴み、床に設置した。

『イチゴ寄越すモ』

「ほい、待ってその前に」

 イチゴも食べるんだ、と感想を抱きつつ床にゴミ袋(40リットル)を敷いて、マーモを乗せる。

 これで床が汚れてもお掃除楽ちん。生活の知恵ってやつだね。

 瑞々しいイチゴからをマーモが齧るとたっぷりの果汁が垂れてくる。彼の毛皮がベッタベタになるも、床に垂れるほどでもない。

 しかし、沢山食べたらきっと床まで汚れるだろうて。

「可愛いー」

 山田さんからの黄色い声にもマーモは何ら反応を見せず、もっちゃもっちゃイチゴを食べている。

 あれのどこが可愛いのか理解に苦しむが、彼女の感性を俺が分かるはずもなく、以下略。

「あ、あの、松井君」

「ご、ごめん。マーモの餌やりについ」

 おずおずと吉田君が手をあげる。いつもながら自分のことに夢中になり、人を気に掛ける意識に欠けている俺であった。

 そんなこんなでまず吉田君の話から聞くことに。

「す、鈴木君が帰ってきていないって姫たちから聞いて」

「毎日ダンジョンから帰ってきていたのに、帰ってきていない、のかな?」

「うん、そうみたいなんだ。鈴木君は降臨持ちだから探索に夢中になっているとか、あと少しでキリのいいところまで進めるからとか、なのかなと思うのだけど」

「いつから帰ってないんだろ?」

「昨日からみたい」

「一日だと判断が難しいなあ……」

 吉田君の言う通り、鈴木君はアグニだっけ? の降臨持ちだからモンスターにやられることはまずないはず。

 ダンジョンのエレベーターは5階単位での移動となるから、そろそろ帰る時間を考えなきゃって時に中途半端な階にいた場合、進むか戻るか判断が必要となる。

 あの自信家の鈴木君のことだ。ちょうど区切りの階でそろそろ帰る時間となったら、更に5階層進んじゃえってなるかもしれない。

 かといって、それでも昨日の朝に出て、次の日の昼になっても帰ってきていないってのは引っかかる。

「山田さんも鈴木君の話かな?」

「ううん、鈴木君のことも気になるけど、私が松井君に伝えたかったのは榊君たちのことなの」

「榊君たち? 攻略組の三人の?」

「うん、鈴木君より深刻なの……」

 途切れ途切れ、言葉を詰まらせながら語る山田さん。

 攻略組の方が確かに深刻だ。確定情報という意味で。

 一言で言うと、榊君を残して攻略組の二人がダンジョンから脱出してきた。

 そんで経緯はってっと、ボス部屋があって罠なのかボスの攻撃なのか分からんが、榊君が神崎君を庇って身動きが取れない状態となり敢え無く脱出したとのこと。

 榊君を置いていって彼は無事なのかというと、命に別状はないが助け出すのが困難な状態なのだと。

「ボス部屋なんてものがあるんだ……」

「うん……神崎くんたちならもう少し詳しく分かると思うよ」

「取り残された榊君が無事というのはよくわからないけど、無事なんだったらまあ」

「湊さんが無事と言っていたから無事のはず。だけど、いつまで無事なのかは分からないわ」

 湊さんって誰だ? と聞こうとしたけど、攻略組の残り一人のことだな。

 彼女が英雄リーシアを引いた人か。生徒の名前より先に降臨の英雄名称を知っているというのもなんとも俺らしい。

 榊君の様子を察するにモンスターの攻撃を受け付けないか、攻撃対象外になる状態異常(恐らく恒久)を受け、その場で留まっている。

 彼を救い出す方法はすぐに一つ思いついた。だが、危険過ぎて実行に移すにはどうなんだろうか。


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