第37話 いでよ、俺の友達
思わぬ山田さんとの出会いで収穫があり、ほくほくで自室に戻る。
「今日は休みにしたし」
先にさっぱりするとしよう。マーモも連れてお風呂へ。
両手で掴んでマーモを運び、風呂場の中央へ置く。身動き一つせず仁王立ちしている。
失礼してあわあわ石鹸を手のひらに乗せ、素手でマーモットをわしゃわしゃっと。泡立たねえが、まあいい。
じゃーっとシャワーでマーモットを洗い流し、綺麗になった。
「終わったよ」
『ブドウを寄越すモ』
「洗ったばっかなのに……」
仕方ないのでブドウを渡し、食べた後にもう一回シャワーで流すことにする。
その後はゆっくり風呂に浸かり、ご飯にした。
「あー、いつものルーティンが終わったらやることが何もなくなる」
休むのはいいが、寝る以外に何もすることがねえ。
休みにしたからディープダンジョン系の作業はやりたくないからなあ。自動販売機で何かいいものがないか探してみるか。
ソシャゲとかできたら良いのだが、スマートフォンはディープダンジョン以外使えないようになっている。
「あー、テレビ、パソコンはあるのか。ん、携帯ゲーム機もあるじゃない。ソフトは……めっちゃ豊富じゃないか。しっかし、ゲーム機もソフトも20年前より古いものしかなさそう。レトロゲー、大歓迎だ」
携帯ゲーム機と髭の配管工が飛び跳ねるソフトを購入したぞ。
「よい暇つぶしにはなるだろ」
なんて、思っておりました。
これがクリアできそうであと一歩でできなくて、匙加減が絶妙なんだよな。
そんで、朝日が昇るまで熱中していたってわけさ。
いつものように寝て、夕方に起き今に至る。
さあて、ダンジョンに向かうまでいつものルーティンをこなすとするぜ。
ルーティンといったらなんだかカッコよく思えるかなあって。実体は変わらんのだが、気持ちの問題だよ、うん。
中身はご飯食べて、ストレッチをして、マーモに餌をあげて……とルーティンを列挙するとくっそ地味だな。
『リンゴを寄越せモ』
「はいはい、俺は冷凍食品にしよっと」
今日は冷凍の長崎皿うどんにした。具材を温めて、ぱりぱりの麺にかけるだけのお手軽仕様だ。
これだけだと足らないから、プリンもつけようっと。
『しゃりしゃりしゃり』
「いただきまあす」
手を合わせて「いただきます」は欠かさず行う。もちろん誰かに見られているわけではない。
そもそも、他の行動も誰かが見ていることを前提にしていないのだ。なにしろぼっちだからな。
◇◇◇
なあんてダンジョンを含む一日のルーティンを黙々とこなしていたら、あっという間に金曜日になった。
明日一日動いてお休みデーか。
自室のベッドの上で寝転がるも、起き上がり冷蔵庫に向かう。
神殿がないかなあと今まで異なる地形や建物がないか探していたのだが、残念ながら成果あがらず、である。
といっても階層は羊がいるので快調に進み、なんと75階まで進んだ!
階層の探索は階層全体を全て周り、遭遇したモンスターも同じく全部倒す。踏破したら次の階へ向かい、同じことの繰り返し。
75階まで進んだわけだが、なんも変わり映えしないんだよね。悪いことじゃないんだが、今の進み方でどこまで進めるのか漠然とした不安だけが残る。
モンスターもまだバールで一撃なんだぜ。忍び足も有効、モンスターの表示色も青。
「よくも悪くも動きがない」
黒い炭酸水をごっくんごっくんして、ちょっとむせた。
梨をかじかじしているいつものマーモを見てハタと思い出す。
「そうだ。山田さんに魔獣ガチャチケットをもらったんだった」
休日はディープダンジョンに関することはやんないぜ、とゲームに熱中してすっかり忘れていたぞ。
そんじゃま、さっそく行くぜ。
『さあ、ガチャをはじめるよ!』
きゅるんとした妖精が出てきて、星マークの演出出現。一気に全部引くぞ。
ガラガラガラ。ドーン。
『レア度 R 乗れる羊』
『レア度 R 乗れる牛』
『レア度 R 乗れる馬』
『レア度 SR 器用なカラス』
『レア度 SR 乗れるスズメ』
色々出てきた。
ええと、乗れるシリーズ多いな、おい!
羊はかぶりで、牛と馬は羊がいるから特に必要ない。
乗れるスズメは飛行可能だろうから、羊より高速で移動できそうだが、天井のあるダンジョンじゃあ使い辛いわな。
道も入り組んでいるので、飛んで移動するに向いていない。どっか使いどころがあるんかいな、分からん。
器用なカラスは宝箱の罠を外すことができるとか? こんな時hあ説明文を見るに限る。
『器用なカラス
食性:雑食
活動可能場所:制限なし
いろいろできる』
つ、使えねえ! 酷い説明文だ。試すとなるとマーモを引っ込めてカラスを出すことになるから、試すとしたら今まで行ったことのある階層だな。
宝箱の罠を外せるかどうかもわからないが、今のところ「器用」で思いつくのは宝箱くらいしかない。
罠外しに失敗した場合、どんなリスクが待っているのか不明なところが怖い。山田さんが箱あけを頑張っているので、カラスを試すにしても彼女に聞いてからにしよう。
ガチャ結果画面を切り替えたら、メッセージが出てきた。
『重複する魔獣が出たので、魔獣ガチャチケットに変換します』
もう一回できるドン、というわけか。持ってても仕方ないので、再度ガチャを回す。
ガラガラガラ。ドーン。
ガチャの演出が流れ、カードがクルクル回っているところでカットイン演出が入る。
『頼もしい魔獣が来てくれたようですよ』
お、おお?
こいつはSSR確定の演出なのか? 期待が高まり、演出を見守る。
『レア度 SSR らぶりーきゅーとな妖精』
「お前かよ!」
ガチャの演出を取り仕切るきゅるんとした妖精のカードがびっかんびっかんと光っているじゃあないか。
どれどれ。
『らぶりーきゅーとな妖精
食性:あまいものだいすき
活動可能場所:制限なし
みんなのいやし、かわいいだけでいやされる』
「……使わんぞ。俺はこんなもの使わねえぞ」
最初に引いたマーモと羊の組み合わせが一番だったってこった。
最初のガチャで羊はともかく、マーモを引いたことは相当な幸運だったんだなあ。
改めてそう思った俺はマーモにリンゴを与えたのだった。