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第31話 本気の「はじめまして」

「ふむふむ、山田さんの考えはいかほどに?」

 俺の問いに対し、可愛らしく指をピンと一本立ててニコリと魅力的な笑みを浮かべる。

「私のことが分からなくなってたんじゃないかな?」

「本気の『はじめまして』だった、と」

 うんうん、と頷く山田さん。

 ふうむ。態度も言動も全部が全部本気だったって解釈か。冗談でやるにしては痛すぎて我に返るほどだったもんな。

 知らないフリをできるような精神状態でなかったと考える方が自然か。

「忘れてたって感じじゃなかったよね」

 彼女に問いかけると再び頷きを返す。

 鈴木君が本気で「はじめまして」と言っていたことから導き出される答えは――。

 ピコーンときたよ!

「いきなりわけもわからないディープダンジョンとやらに閉じ込められたことによるショックで、クラスメイトの記憶が飛んでしまった」

「そ、それはあるかも……」

 な、なんだよ、山田さん、その困ったような顔は。生暖かい優しさが却ってグサリとくるじゃないか。

 盛大に外しただろう俺に向け彼女は笑顔を作り、自分の考えを述べ始める。

「私なりの考えだから、突拍子もないけど……鈴木君はここ数日で私や松井くんのことを忘れてしまったんじゃないかな?」

「というと?」

「吉田くんのことはこれまで通り『吉田氏』と呼んでいたよね。覚えていることと覚えていないことがあるのかなって。それで、松井くんと吉田くんが鈴木くんの性格について喋っていたことなのだけど、思い当たるところってないかな?」

「思い当たるところと言っても、吉田君から『中二感』と『俺様』が混じってるって。あ」

 ディープダンジョンに来た頃の鈴木君は「記憶が正常」で、日を経るごとにクラスメイトのことを覚えていなかったり、記憶の欠落が生じていた。

 キャラも交じってることから、記憶の欠落というより記憶の混濁が起きているんじゃないか?

 なら、一体なにと混じってるってんだろ。

「う、うーん、俺も突拍子もない考えに至ってしまったよ」

「いっせーの、で言ってみる?」

 よおし、手をあげてー、からのドン。

「ショックから多重人格」

「別の何かがいる」

 あれ、合わなかったなあ。い、いや、意味合いは似ている。

 単に記憶喪失になったってわけじゃなく、別の何かが彼の中で生まれ、元の彼と混じっちゃったんじゃないかって考えだ。

 意見が合ったとはいえ、突拍子もない話ってのは変わらない。

「鈴木君の人格がごっちゃになっていたとして、俺たちに悪意を持つのかどうか」

「俺様に任せておけ、って感じだったから……どうかな?」

「少なくとも女子生徒に対しては『姫』と好意を持っていたし。男はどうだろう、吉田君には親し気だったから」

「我が道を行く、他はついてくるならついてこい。俺が何とかしてやる?」

「そんなところじゃないかな。同じソロでも俺とはえらい違いだわ」

「そんなことないよ! 松井くんがいてくれて待機組はとっても助かってるわ」

 力強く否定する山田さんであったが、美化し過ぎだって。

 待機組のみんなにイルカから得た知識を広めたのは山田さんの功績だし、俺は元ネタを提供したに過ぎない。

 元ネタだって自分の生活圏(ガルド稼ぎ)を脅かさないと判断したからだから、自分の身を削って他人に尽くすって気持ちから来ていないのだ。

 酷いという以外表現のしようがない鈴木君の言動や仕草であるけど、彼のほうがみんなのために動いているんじゃないかな。

 少なくとも、自分が何とかしてやるって動いているもの。やり方はともかくとして。

 女子生徒だけじゃなく、吉田君も誘っていたみたいだし、俺様についてこい、全部俺様がやってやる、というのはなかなかできることじゃないぞ。

 とんでもない自信がどこからくるのか疑問過ぎるが、降臨の力はそれだけ凄まじいってことかもしれん。

「鈴木君のことは今のところ心配しなくてもよいんじゃないかな? 今後はどうなるか心配だけど」

「うん」

 山田さんと鈴木君のことについて、今後は吉田君に定期的に様子を聞いておこう、と結論つけた。

 

 ◇◇◇

 

 山田さんと別れ、自室に戻りベッドに寝転がる。

 枕元にはマーモが仁王立ちし、梨をしゃりしゃりとやっていた。ベッドに果汁が垂れまくる前に彼を掴み、テーブルの上に乗せる。

「そこで食べて」

『しゃりしゃりしゃり』

 聞いちゃいねえ。まあ、大人しくお留守番できたご褒美ってことで存分に食べるといいさ。

 あとでテーブルを拭くのとマーモットを洗うのを忘れないように、と心に念じつつ再びベッドへ。

 天井を見上げ……イルカが視界に入ってきやがる。

「イルカ、降臨って自我がおかしくなるの?」

「『神器』が憎いです。『降臨』はもっと憎いです」

「……答えになってねえ」

「それはキミの目で確かめてくれ」

 こ、こいつ。答える気無しだろ。知らないなら知らないで「その知識は持ち合わせていません」とか素直に言えばいいのに。

「少し寝てからいよいよ51階へ挑戦してみるか」

 出発まであと4時間ほどか、仮眠してから軽く食べて出発しようぞ。

 本来用意されていたスタート地点は地雷たっぷりだった。51階はどんな感じかな? 49階と50階のモンスターのレベル差が結構あった印象だけど51階はいかに。

 

 そんなわけで仮眠後、やって参りましたダンジョンに。さくさくとモンスターをバールで一発やりながら進む。

 よっし、あったぞ階段が。

「さあ行こう」

 51階へ続く階段を乗れる羊に乗ったまま慎重に階段を下りていく。

 最初が大事だぞ。ファーストコンタクトでモンスターの表示色を逃げ腰で確認する。

 忍び足の判定に成功、失敗どちらにも関わらず表示色を見たらまず逃走だ。次に襲い掛かってくるかを確認する。

 二段階で安全に行くぜ。

 いたいた、モンスターが。見た目は豚頭の人型で身長が2メートルほど。

『オーク』

 と豚頭の上に表示されていた。表示色は青である。

 もちろん色を確認しつつも羊に乗ったままオークから遠ざかっている念のいりようだぜ。

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