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第29話 協力者、ありがたいね

 50階のグレイトウルフとフレイムリザードはレベル上げの効果もあり、表示色が青色になった。

 嬉しいことにどっちのモンスターに対しても忍び足の判定が成功し、背後からバールで一発で仕留めることができたんだ!

 忍び足が有効になると途端にヌルゲーになる。もっとも、一撃で仕留めることができないと反撃を食らってしまう。

 もちろん対策を打たない俺ではない。マーモ大先生に構えていただいている。ちゃんとブドウも忘れずにね。

「それはそうと……憂鬱だ」

 いつものごとく昼ではなく夕方に起きて朝食をとっていた。

 さあてデザートは何にしようかな、なんてウキウキしているとだな、思い出してしまったのだよ。

「鈴木君と会うんだった……ドタキャンしないかな」

 そもそも人と会うことに喜びなんぞ感じない真なるぼっちの俺に、鈴木君とは敷居が高い。そそり立つ壁を乗り越えねば、いや、乗り越えなくてもいいじゃないか。彼の親友である吉田君がいるのだもの。

「考えても仕方ない。吉田君、頼んだぞ。えーっと、デザートは何にしようかなあっと」

 決して現実逃避したわけじゃあないんだぜ。俺は吉田君に全幅の信頼を置いているのだ。

 あ、鈴木君って女子生徒二人と一緒なんだっけ。あかん、そうなると吉田君がぽんこつになってしまう。

 山田さんと俺、吉田君の三人の時のあの沈黙を。慣れてくれば俺も吉田君も喋ることができるのだが、面識のない女子生徒となると。

 いやいや鈴木君だって俺と吉田君に会うとなったら、気を遣って……くれるような中二病じゃあないな。

「そして俺は考えるのをやめた」

 外の風に当たりながらデザートのカップアイス(バニラ)をいただくとしよう。

 

 ガルドは余っているし、パイプ椅子を注文してテラスに持ち込むことにした。

「うっし、これでゆったりとアイスを楽しむことができる」

 小さなアウトドア用のテーブルも用意すりゃよかったかも。次回の優雅なテラスタイムの時には注文しとくか。

 心の注文書に刻み込んでいたら、突然の声に肩がびくううっと上がる。

「やっほー」

「や、山田さん」

「ご、ごめんね。驚かせるつもりじゃなかったの」

「い、いや」

 隣のテラスで両手を合わせて頭を下げる山田さんに向け困ったように首を振った。

「や、山田さんもアイス食べる?」

「うん! 持ってくるー」

 何か喋らなきゃと口をついて出た言葉がこれである。我ながらいけてなさすぎて自己嫌悪だよ、ほんとに。

 しかも、山田さんが自分でアイス取りに行っているし。多分、今頃自販機で購入しているのだろう。

 ちょこっと高給なパッケージのカップアイスを持って戻ってきた山田さんがふわふわの笑顔を浮かべ、アイスの蓋を開ける。

「奮発してみましたー」

「俺も高級なのにすればよかったな」

「あはは」

「はは、は」

 しゃがんでアイスを食べる山田さんは冷たすぎたのかムムムと眉根を寄せた。本当に表情がコロコロ変わって素敵だなあ、彼女は。

 こういったところも人とコミュニケーションをとるのに必要なことなのかもしれない。彼女はワザとやっているわけじゃあないんだろうけど、俺には眩しすぎるぜ。

 ついつい眺めていたら、顔をあげた彼女と目が合った。咄嗟に目を反らしたが、かああっと頬が熱くなる。ぼっちには真っすぐな視線が突き刺さるものなのだ。

「松井くん、何か悩んでる?」

「あ、う、うん、まあ」

 悩んでいるのは確かだが、今見せた反応は誤解が過ぎる。しかし、悪くない誤解だったのでそのまま乗っかることにした。

 対する彼女は舌を出して「自分もなんだ」と返す。

「山田さんも? 待機組はガルドを稼げるようになったんだよね?」

「うん、松井くんの情報があってのことだよ。松井くんはどんなことで悩んでいるの? あ、ごめんね、ズケズケと」

「いやいや、聞いてくれて嬉しいって。俺にとっては深刻なことで、この後、吉田君に誘われて鈴木君と会う約束をしているんだよ」

「鈴木君と? 喧嘩して仲直りが気まずいとか?」

 ぐうおおお。山田さん、喧嘩から仲直りとかハイレベル過ぎるぜ。

 彼とは挨拶を交わしたかどうかも怪しいくらいの関係性だ。喧嘩ってやつはコミュニケーションが取れて初めて成立するんだぞ。

 ちょっと悲しくなってきた。

「鈴木君とは挨拶をする程度の仲なんだけど、吉田君が鈴木君と親しくて、なんだか様子が変だというから様子見にと、吉田君に」

 自分で言っいて、説明が説明になっていないと自覚する。

 しかし、山田さんは手を叩いてピンときた様子。

「憑依の影響があるかもってことよね?」

「ん、そ、そうなのかな。あ、あ、時に山田さん、一つお願いがあって」

「松井くんにはお世話になっているから、何でも……えっちなのじゃなきゃいいよ?」

 何を言ってんだこの人は……。冗談が通じる相手とそうじゃないぼっちの区別をつけないと、いけないぞ。

 なんて言えるはずもなく、盛大にどもる俺である。

「そ、そそそ、んなんじゃないって。一緒に鈴木君と会ってくれないかなって」

「いいの!? 私が行ってもいいなら、行く行く」

「あ、ありがとう」

「こちらこそ!」

 やったあ。これで女子生徒がいても何とかなるぞお。

 山田さんなら女子生徒とでも気軽に喋ってくれるだろうし、陽のオーラの支援があれば百人力だ。

「あ、それで、会う時間なんだけど、このあとすぐなんだ」

「10分後くらいかな? 用意するね!」

「あ、1時間後くらい」

「はあい、お部屋のチャイムを鳴らすね!」

 あ、山田さん、部屋に戻っちゃった。俺だけ一方的に悩みを相談して彼女から聞いてなかったぞ。

 鈴木君と会った後、山田さんと別れるまでの間に彼女へ聞いてみることにしよう。

「あ、アイス……」

 会話に夢中になり、途中まで食べたアイスがそのままだった!

 かなり溶けてしまったが、これはこれでうまいな、うん。

 残りのアイスを食べ、謎の感想を述べる俺であった。

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