表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/93

第23話 乗れる羊

 マーモットのスンバラリンと箱をバラバラにした件は頭の奥底に沈め、自室へ戻り自販機をチェックする。

「どのカテゴリーだろうね」

「あ、う、うん」

「大工道具? うーん、武器?」

「あ、う、うん」

 うわの空で応える俺に対しても山田さんはきゃっきゃとタッチパネルのメニューを操作していた。

 いや、あのですね。近い。一緒に覗き込んでいるからだろうけど、自販機はドリンクの自販機くらいの大きさがあるんだぞ。

 肩が触れる距離でメニューを確認し合う必要なんてないのだ。

 さりげなあく、離れようとしたら山田さんの手が肩に触れ、びくっとする。

 なんだかいい匂いもするし、どうしたもんかなこれ。

 俺の思いをよそに彼女は頬を紅潮させもう一方の手で画面を指さす。

「これじゃない? 盗賊の七つ道具」

「そうかも、イルカ。罠解除に必要なアイテムは『盗賊の七つ道具』で合ってる?」

「異なります。『罠解除の七つ道具』です」

「どのあたりにあるんだろ」

 これに対してイルカは無回答だったのであるが。

「あ」

 その時、俺に電撃が走る。

「イルカ、自販機に検索機能ってないのかな?」

「あります。『検索』と心を込めて唱えてください」

 えー、それはそれで嫌だな。

「山田さん、俺の発言で予想がついたかもしれないけど、自販機には検索機能があるみたい」

「おー。そんな機能があったんだ。気が付かなかったわ」

 かなり恥ずかしかったけど、山田さんに「検索」と唱えることを耳打ちする。

 彼女は耳元で囁いた俺に対し特に嫌がるそぶりも見せず、喜々として「はい」と右手をあげた。

「行くよ。検索」

「おお」

「見慣れた検索窓だあ」

「だねえ」

 無事「罠解除の七つ道具」を発見、購入する。お値段は100ガルドだった。

 迷わず購入ボタンを押したわけだが、半歩遅れて山田さんが俺の手を握る。

「松井くん、罠解除の七つ道具を使うつもりはなかったんじゃない?」

「そうだった」

 しかし、購入ボタンを押してしまったので、罠解除の七つ道具が床にお届けされていた。

 注文するとどこからともなく出現するんだよな。毎度のことながらビックリする。

「松井くん、ちょいちょい、手を出して」

「うん? ひゃあ」

 いきなり手を合わせられたら、驚くだけじゃなくきょどるだろ。山田さんが女の子だからってだけじゃない。

 ほら、人と手を合わせるとか、男女どちらでも、ね。なんだか悲しくなってきた。

 そんな俺に向け、山田さんは笑いながら提案をしてくる。

「あはは、取って食わないったら。その七つ道具、私に買い取らせて」

「んん」

 なんと、システムメッセージが出てきた。

≪山田ひまりから100ガルドでトレード希望がきています≫

 おお、七つ道具をこちらが出せばいいんだな。

≪トレードが成立しました≫

 トレード機能なんてあったんだな、ディープダンジョンに。

 イルカに聞けば教えてくれるのだろうけど、生粋のぼっちたる俺がトレード機能なぞ尋ねるわけがなく。

 ともあれ、罠解除の七つ道具が手に入ったので再びダンジョンへ向かう。

 

 山田さんが宝箱にホテルのルームキーについているキーホルダーに似た「罠解除の七つ道具」を当てると、ガチャリと一人手に宝箱が開く。

「開いた!」

「開いた!」

 山田さんと俺の声が重なる。中に入っていたのはガルドのみだったのだが、さすが15階、これまでよりガルドの量が多い。

 続いて開けてみようと15階をモンスターを倒しつつうろうろして、宝箱を三つ開けることに成功したんだ。

 出てきたものは、ブーメラン、ポーション(小)、ガルドの三点だった。山田さんは再起の杖しか装備できないので武器は必要ない。

 俺もブーメランは要らないかなあ。

 気になったのはゲーム好きなら誰でも一度は使ってみたいポーション(小)だな。自販機には傷薬は会ったと思うのだが、ポーション類は見なかった気がする。

「松井くん、ブーメランとポーション、良かったら持って行って」

「ブーメランは使いこなせそうにないよ。ポーションは山田さんが持っていた方がいいんじゃないかな」

「ポーションって傷を癒すアイテムだよね? 私には必要ないよ」

「な、なら、ありがたく」

 再起の杖を掲げるふんわりとした笑みを浮かべる山田さんにドキリとしつつも感謝を述べる俺なのであった。

 

 なんのかんので山田さんと明け方までダンジョンツアーを楽しんだ。

 楽しいは楽しんだが、俺はやはりソロが落ち着くことを再確認した次第である。いや、たまにならいいのだけど、なんだかふわふわ落ち着かなくて。

 本来、ダンジョン攻略はソロよりパーティの方が断然効率がいいはずなんだ。頭ではわかっていても、必要に迫られない限りソロがいいなあ、やっぱ。

 そして迎えた翌日の深夜0時30分、ソロでダンジョンへと繰り出す。

 まるで実家のような安心感。これだよこれ。ソロといってもマーモットと離したくても離れないイルカと一緒であるが……。

 こいつらはノーカンだろ。

 今日は更に追加で「乗れる羊」のおまけつきだぜ。

 「乗れる羊」を実体化させる。うん、見た目まんま羊だよ。ははは。乗れるだけにサイズは大きいけどな。牛くらいありそう。

「めえええ」

「うお、こっちは喋らないんだな」

 ぽんぽんとお腹を叩くとしゃがんでくれたのでさっそく乗ろうとして思いとどまる。

 いきなり乗って暴走したら止める手段も分からんからな。焦りは禁物である。

「イルカ、羊の乗り方を教えて」

「心で念じるんです。感じろ」

「分かったような分からんような」

「だから、感じろ」

 ……。こ、こいつ。要は心の中で思い浮かべた方向に進んでくれるってことだな。

 改めて、羊に騎乗する。騎乗したら羊がすっと立ち上がり、その場から動かずにいた。

 ゆっくりと前へ進んで欲しいと念じると、念じた通りに動いてくれたのだ!

「すげええ」

 安全地帯の中で羊の動きを確かめ、慣れてきたところでいよいよ探索に繰り出すことにした。

 今日で一気に15階から20階へ行ってやるんだからな。

 あ、マーモットは俺の前に乗っているぞ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
羊でモコモコ移動とか羨ましすぎる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ