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第21話 秘策はフラフープ

「行け、マーモ」

『嫌だモ』

「……」

『任せろだモ』

 ブドウの粒を見せると、マーモが両前脚で挟みこむようにして掴みもっしゃもっしゃと食べる。

 僅か20メートル先にでかいカニ……いや、エビのようなモンスターが鎮座していた。

 おっと、順を追ってここまで道のりを説明させ欲しい。

 マーモと初めてダンジョンに出かけてから早2日経過している。

 

 マーモが戦闘態勢をとると問答無用で「俺に」モンスターが向かってくるため、対応策をとれないかと模索した。

 マーモを使わない、というのも選択肢の一つであるが、彼が攻撃してくれるとなれば俺は回避に集中できる。

 回避しつつ隙を見て攻撃するよりは遥かに難易度が下がるだろ。この先進むためにはマーモを切り捨てるに惜しい。

 山田さんの話によると神崎くんは生身で50階のモンスター相手に戦っているそうだから、回避特化なら俺でもなんとかなる……と安易に考えてはいないさ。

 彼のような運動神経なんて持ち合わせていないからな。誰かができるからといって自分ができると考えるのは危険に過ぎる。

 こう見えて武道どころかろくに運動をしたこともないからね。

 え? 知ってたって? う、うるせえ。

「賢い俺は考えました。生身じゃ無理だと。だから、スキルを使う」

 数時間かけスキルのことを聞いた結果、取得するスキルを二つにまで絞り込んだ。

 そのために必要なのはフラフープとお手玉である。

 フラフープを腰に置き、ふんぬと気合で回転させようとするものの、なかなかうまくいかなかったが、30分かけてようやく「回避術」を習得した。

 続いて、お手玉をぽんぽこぽんとすることで「軽業師」のスキルを獲得する。

 そんで、丸一日かけてずーーっとフラフープとお手玉をやり続け、熟練度を上げたんだ。腰がやべえが、寝たらある程度回復した。

 いつもの時間に出発し、試しに10階へ来てカニのようなエビのようなモンスター「クラブシュリンプ」というモンスターと対峙している。

 

 カリカリと皮ごとブドウを一粒食べきり、もう一粒食べきったマーモはようやく満足してくれた。

「そんじゃ、頼むぞ」

『任せろだモ』

 マーモに蛍光灯を持たせたら、クラブシュリンプが戦闘態勢になる。

 ぶくぶくぶくと口から泡が出てきて、背筋がゾワゾワきた! 危険を予測できているのかもしれない。

 嫌な予感がし、咄嗟に右へ転がる。

 ドガアアアン。

 ……今いたところに泡が着弾し爆発した。

 こ、怖。

 何も考えずに右に転がったのだが、自然に体が動き立つ姿勢に戻る。

 回避術と軽業師のスキルのおかげで間違いないな、この動き。側転をしてなんてことも考えてなかったし、側転をできるような体勢じゃあなかった。

 そうこうしているうちに、クラブシュリンプへ緑の閃光が奔り、バラバラになる。

「蛍光灯すんげえな」

『分かったらブドウを寄越すモ』

 いやまあ、俺のバールでも一撃なんだけどね。なんてことは言わないが吉である。

 余計なことを言って拗ねられるとたまらん。

 10階のモンスターじゃ蛍光灯がどれほどの威力を持つのか不明。見た感じからするとバールで殴るよりはダメージを与えてくれていそうなのだが……もう少し深い階層で試さないと分からん。

 この後、数度モンスターを倒し、15階へ移動する。

 15階のカマキリみたいなモンスターの攻撃も何とか回避することができ、慣れるために数度戦闘を行った。

 確かな手ごたえを掴んだ俺は、いよいよ20階目指して進み始める。

 

「なんて気合を入れましたが、ダンジョンが広くて17階へ突入したところで引き返してきたよ」

 誰に向けて言ってんだか。

 自室で黒い炭酸水を飲みつつふうと息をつく。マーモットにはリンゴを与えてある。

「マーモットの運用は何とかなったから、次は乗れる羊だな、うん」

 忍び足の判定が失敗する階までがつがつ進むには徒歩じゃなく、羊に騎乗してこそ。

 なんのかんので5階刻みのエレベーターを突破するために同じ階層をぐるぐるしているから、レベルは上がっている。

 階層ごとの至適レベルがあるのだろうけど、多少階層を進んだとしても至適より高いはず。

「移動速度があがったら、レベル上げも効率よくなる。いいことばかりなんだよ、ふふん」

 得意気に胸を反らして高笑いしていたら、ピンポーンと呼び出しのベルが鳴る。

 アパートではなくホテルの一室みたいな部屋なのでピンポーンに肩がびくううっと上がった。まさか今の痛い高笑いを見られてないよな?

「い、いかん。出ないと」

 ガチャリと扉を開けると呼び鈴を鳴らしたのはお隣の山田さんだった。

 俺と目が合うとにこおっと満面の笑みを浮かべる彼女に面食らってしまう。か、可愛いなんて思ってないんだからな。

 そもそも山田さんは澄ましていても可愛いし。クラス一番なのかというと好みは分かれそうだけど、少なくとも誰が見ても彼女は可愛いと思われるはず。

 俺の欲目とかそんなんじゃあなくて……何を考えているんだ俺は。

 ま、まあ、冴えない俺には眩しすぎるってことだ、うん。

「ここじゃなんだし、入って」

「いいの!? 私の部屋に来る?」

 彼女は俺がプレイベートスペースを大事にする人と考えたのか、自分の部屋に誘ってくれた。

 散らかってるから、というのもあるけど、マーモットがベッドの上で仁王立ちしているってのが大きい。

 彼のことを説明していたらそれだけで結構な時間がかかってしまいそうだもの。

 

「お邪魔します」

「あはは。みんな同じ間取りじゃない。ベッドも同じでしょ?」

「自販機も同じかな」

「そうだね」

 山田さんが気を遣ってくれて、あははと俺も笑うことができた。

 彼女に紅茶を淹れてもらって、テーブルに向い合せに座る。

「クッキーもあるよ!」

「あ、ありがとう」

 お、このクッキーおいしい。自販機にいろんなものあるから開拓するのも面白いかも。

 クッキーを食べる俺をえへへと見やる山田さんから目を反らす。ぼっちを見るのはダメだぞ。

 なんて言えるわけもなく、だが、悪い気もしない自分もいて……。

 あたふたしていたら、山田さんがじゃじゃーんと知恵の輪を見せてきた。

「私も忍び足と罠解除のスキルを取ったんだよ」

「お、おお。レベルを上げて取ったの?」

「うん、それで10階まで進んだのだー」

「お、おお」

 レベル30まで上げてから忍び足と罠解除を取って、10階まで進んだとは、やるな、山田さん。

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