第20話 SSRとか言ってるが酷い
『さあ、ガチャをはじめるよ!』
きゅるんとした妖精が出てきて、星マークの演出が出てきた。無駄なところが凝っているな……。
ガラガラガラ。ドーン。
『レア度 R 乗れる羊』
それ、もう一丁。
ガラガラガラ。ドーン。
『レア度 SSR マスターマーモ』
「SSRだと! いや、でもこれ……どう見ても魔獣に見えんぞ。二つとも」
ここからはスマホではなく、視界へとビューを切り替えた。
説明に合った通り、ソシャゲでよく見るカード風に「乗れる羊」と「マスターマーモ」が表示されていて、説明文まである。
まんま、ソシャゲのカードだなこれ。
『乗れる羊
食性:草・果物
活動可能場所:ディープダンジョン内
背骨が頑丈で力持ち。スタミナも豊富だぞ』
『マスターマーモ
食性:木の根・果物
活動可能場所:制限なし
マーモット界伝説の武芸者。真実はキミの目で確かめてくれ』
「ざ、雑な説明だな……。なんのこっちゃ分からん」
ダンジョンの天井は高いから、騎乗してバールを振り上げてもつっかえることはない。羊の上でジャンプしても天井に余裕で届かないだろうな。
「活動可能場所ってことは、出し入れするのかな?」
「その通りです。(活動場所が)ダンジョン内のみの魔獣は忘れずに収納しましょう」
実際に試してみることにするか。
調べると実際にやるじゃまるで違うだろうから。
乗れる羊のことばかり考えているじゃないかって? もう一方はSSRとはいえ、運用方法が分からん。
剣聖とか剣豪なら使ってみようかなと思うのだが、武芸者となるとどうなることやら。加えて、活動可能場所に制限がないから、引っ込めることができないとか懸念しているんだ。
ほいほい試してみる俺がえらい疑り深いのには理由がある。
この俺がSSRなんて引く運があるとはあり得ん。きっとぬか喜びさせて地雷を踏ませるに決まっているんだ。
「私は素晴らしくレアですが、地雷ではありません」
ドキリとしただろ! イルカから言われると使ってみたくなる不思議。
「聞いてないんだけど、俺の心を読むのやめてくれるか」
「読んでなどいません。失礼なマスターですね」
「その呼び方素敵。どんどんそれで行こう」
「……松井さんと呼びます」
いやいや、マスターと呼んでくれよ。イルカはどうも俺が喜ぶのが嫌なご様子。嫌がっていることを嬉しそうにすればうまくいくかもしれん。
「松井さんってのもちょっと」
「面倒なヒトですね」
いや、そこで黙らないでもらえるかな。AI相手でもコミュニケーション能力が高くなるわけじゃあないからどうにもこうにも。
「んじゃま、マスターマーモを出してみるか」
お部屋で出せるお手軽さ。行ってみよう。
えー、マスターマーモを出しました。見た目もサイズもマーモットそのものである。
ずんぐりしていてふてぶてしく、仁王立ちしピクリとも動かない。
「えー、マスターマーモさん」
『マーモだモ』
「喋った……イルカも喋るし、まあ、マーモットも喋ってもいいのか」
『SSRだからだモ』
そうかあ、SSRだからかあ。
……俺は突っ込まないぞ。絶対に突っ込まないからな!
「マーモは何も持っていないけど、素手で戦うの?」
『武器を寄越すモ』
「バールならあるけど……」
『これじゃダメだモ』
何ならいいんだろうか。こういう時はダメ元でイルカに聞いてみるに限る。
「イルカ、何なら装備できるんだろ」
「蛍光灯かリレーのバトンです」
蛍光灯ってあんた、何言うてんねん。マーモのサイズだったら、蛍光灯でも短いタイプのものかな。
60センチの長さで真っすぐなタイプの蛍光灯を注文し、マーモに見せる。
『割れるモ?』
「そらまあ、蛍光灯だからなあ……あ」
賢い俺は思いつきました。
吉田君に頼んで蛍光灯を限界まで強化してもらったぞ。これでいけるだろ。
そんなこんなで深夜になり、5階に移動してからマーモと共に探索を始める。今日は深い階層に挑戦するつもりがないので、盾は置いてきた。
5階のモンスターはおっきいトカゲにラットマンファイターの二種類だ。
どっちも目の前まで寄って行っても気が付かず、バールをたたきつければ倒すことができる。
ちょうどT字路の突き当りにラットマン二体がぼーっと立っていた。んじゃま、試してみますか。
「いた。右のラットマンを頼んでいいか」
『面倒だモ』
「……蛍光灯もう要らない?」
『仕方ないモ。あとでブドウを寄越すモ』
マーモに蛍光灯を渡すと、一丁前に構えやがった。
そして、驚くことに蛍光灯が黄緑色に光ったんだ!
途端にラットマン二体がこちらを見据え、ショートソードを掲げる。
「え、え」
驚いている間にもラットマンが突進してきて、パニックになってしまう。
ぶおんぶおん。
そこへ緑の光が奔り、あっという間にラットマンをバラバラにした。
『二体分のブドウを寄越すモ』
「あ、うん」
マーモがラットマンを倒したことより、奴らが襲い掛かってきたことに動揺し呆然としている。
いったん安全地帯まで戻り、イルカに問いかけた。
「忍び足の効果を分かる限り教えて欲しい」
「忍び足の効果範囲は本人のみです。気が付かれるかの判定があり、クリアすると相手に気が付かれません」
マーモがいるとモンスターに気が付かれる理屈は分かったけど、最初、ラットマンはぼーっとしていたよな。
「連れている魔獣は襲われないの?」
「魔獣は攻撃態勢に入らない限り、モンスターの襲撃対象外です」
あー、そういうことね。
魔獣は同じモンスターの扱いだからか、何もしていないならモンスターの攻撃ターゲットにならない。
逆に俺たちプレイヤーは攻撃対象になるのだけど、俺は忍び足の判定とやらに成功していれば襲われずに済む。
「そういえば、以前忍び足について聞いた時、教えてくれなかったよね」
「魔獣を解放したことで情報開示が可能になりました」
「そういうことか」
「そういうことです」
こいつ忘れてただけなんじゃねえか、と疑うも真実は闇の中である。