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第17話 裏4 山田ひまり

「やっちゃった……」

 自室に戻って先ほどのことを思い出し、真っ赤になってベッドにペタンと座ったまま頭を抱える。

 屋敷裏の庭園で松井くんと吉田くんが親し気にしているのを見て、声をかけたまではよかったんだけど……。

 彼らとの会話に混じろうと必死すぎたのよね。普段挨拶程度しか交わしていない二人をベンチに座らせたのは悪手過ぎた。

 だ、だって、どうしたらいいかわかんなくなって。彼らとの距離感を考えていなかったの。

 二人とも優しいから嫌がるそぶりは見せなかったけど、さりげなく立ち上がったりしていたし、苦手と思われちゃっていたらどうしよう。

「忘れる! そのためには無心で違うことをするんだ!」

 えいえいおー、と右手をあげ、慣れない料理を始める。

 カレーだったら私でもおいしく作ることができるんだもん。た、たぶん。

 カレールーが素敵だから、何を入れてもそれなりの味になるって聞いたもの。

「……」

 作り過ぎちゃった。

 それにお部屋にカレーの匂いが充満して、匂いがつかないか心配になってきちゃった。

 窓を開け、テラスに退避していたら松井くんが!

「やっほー」

「こ、こんちは」

 松井くんがはにかんで挨拶を返してくれた。彼はぼーっとしているように見えるけど、実は思慮深く、発想力もすごいの。

 彼の引いたガチャは真理「物知りなイルカ」。

 ディープダンジョンの仕様は繰り返す中である程度把握しているつもりだったの。ところが、まさかエレベーターで1階に行くことができるなんて思いもしなかったわ。

 何回目かで榊くんたちとダンジョンに潜ったことがあって、エレベーターの存在は知っていたのだけど、1階行のボタンなんてあったかな?

 もしかしたら、「降臨」の人と一緒だったら低層階に行くことができないとか、もありそう。

 

 松井くんをご飯に誘っちゃった。ぐいぐい行きすぎて後悔したばかりだっていうのに……。

 彼と話をしていると完成していたと思っていたパズルが実は欠けたピースだらけだったということに気づかされることばかり。

 物知りなイルカはディープダンジョンの説明書のようなもので、聞けば何でも答えてくれる。

 かといってディープダンジョンの全てを教えてくれるわけじゃないんだと松井くんが言っていた。攻略本じゃなくて説明書と彼が表現したのはそういった意味があるんだって。難しいことはよくわからないけど、ディープダンジョンのクリア方法を教えて、と言っても分かりません、と返ってくる? ものみたい。

 でも、何度も繰り返した私には分かる。イルカから情報を引き出した松井くんの慧眼こそ得難いものものだって。

 彼とは違うやり方だけど、私も情報収集には長けた「再起の杖」を所持している。

 物知りなイルカがいなくとも、繰り返すうちに情報が集まっていく。でも、私が知っていることの総量って既に松井くんと変わらないくらいになっていると思うんだ。

 ……ダメすぎる、私。

 松井くんが帰った後、またしてもベッドでずううんとなる。

「これが、まさか、ね」

 地下足袋をつまみあげ、穴が開くほど見つめ「ふううむ」と息をつく。

 地下足袋を装着して、歩くだけで「忍び足」のスキルを習得できるなんて思ってもみなかったわ。

 スキルについて知らないわけじゃなかったのだけど、まさかこんな習得方法があるなんて。

 地下足袋は気が付かないにしても、自分で攻略に乗り出そうとしていなかった私には色んなスキルの習得方法を探すという発想がなかった。

 レベルを上げた回でたまたま釘を打つためにハンマーを振るったらスキルを習得したの。それで初期スキル以外のスキルを習得できることを知ったわ。

「固定観念って怖いよね」

 攻略できるのは憑依か戦闘向きの神器を持ってないとダメだって思い込んでいたのよ。

「これから変わればいい。がんばれ、私!」

 彼から教えてもらったもう一つのスキルが習得できる知恵の輪を解こうと頑張ったのだけど、これ無理、解けないよ。

 ベッドに寝ころび足をバタバタさせ知恵の輪をサイドテーブルに置く。

「忍び足と罠解除ってどんな効果があるんだろう。試してみるのが楽しみ!」

 松井くんもまだはっきりとした効果が分からないと言っていたから、私が仕様を解明して彼に伝えて驚かせてやるんだから。

「待ってろよお。松井くん!」

 よっし、と起き上がって、洗面所に向かう。

 髪をとかして鏡の前で笑顔になったり、んーっと横に伸ばしてみたりしてチェック完了。

 服はどうしよう。

 松井くんと吉田くんのことを想像し、制服にすることを決めた。

 見慣れた服装の方がそうじゃないより親しみを持ってもらえると思ったから。

 この時の私はスキルとダンジョンツアーのことでですっかり舞い上がっていたこれから起こることをすっかり忘れていたんだ。

 これまで「毎回」失敗し、最初に戻っていたことを。

 「降臨」持ちも絶対ではないことを。

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