第15話 バックパックにバールは危ない人
「スキルのことは知っているよ。レベル10ごとに1つスキルが増えていく」
「おお、さすが松井くん。スキルの習得のことも?」
「うん、今は鈍器、忍び足、罠解除の三つを持っているよ」
「三つ! 1階に行ってモンスターを倒したからレベルがあがったのかな? それとも最初からレベル30?」
最初からレベル30ってどういうこと?
どうやらお互いに疑問点があるみたいなので、順番に質問することに。
俺から聞いたのは初期レベルとスキルのことだ。「降臨」を引くとレベルは255(最大値)になるんだって。
「神器」はそれぞれで、最初から持っているスキルを習得できるレベルが初期レベルになる。
まずは俺から聞くぜ。
「最初から持っているスキルって?」
「私のステータスを見てもらうのが分かりやすいと思う。松井くん、手を出して」
前に手のひらを向けると彼女が手のひらを合わせてきた。
≪山田つむぎからパーティに誘われています≫
了承すると、山田さんのステータスが見えるようになった。
『山田つむぎ
神器:再起の杖
レベル:10
所有スキル:担い手』
ステータスを閲覧したことより、唐突に手を合わされたことの方が驚いたってのは決して口に出してはいけない。
「お、おお。担い手ってのがある。これが最初からあるからレベル10なんだね」
「松井くん、すごいね! レベル52って」
「あ、う、うん。山田さんも忍び足を取ればすぐレベル50を超えるよ」
「そうそれ、忍び足とか罠解除とか鈍器のように後から習得したんだよね?」
今度は俺からスキル習得について分かっていることを伝える。
山田さんは頬を紅潮させ、両手を合わせて目をぱちくりさせていた。陽の者ってこんなに表情豊かなんだな、と変な感想を抱く生粋のぼっちの俺である。
謎の感想を抱いている間にも彼女は形のよい顎に右手を添え、某探偵の仕草を真似して見せた。ちょっと古いが、俺も知っているので問題なし。
「引いたガチャによってビルドの自由度が変わるのね!」
「山田さん、結構ゲーマーだったりする?」
「アプリの落ちてくるキャラクターを消すゲームくらいかな」
「そ、そうなんだ。ビルドってのは俺たちをプレイヤーとして考えた場合のキャラクタービルドのことだよね?」
うんうん、と頷く山田さん。
落ちゲーを多少やった程度でよくビルドって発想が出てきたなあ。彼女の話によると「降臨」「神器」「真理」それぞれ初期レベルから違うんだよな。
想像であるが「降臨」は最初からレベル最高でスキルや装備も全て揃っているんじゃないかな?
対して「真理」は一切キャラクターが成長していない状態である。自分の裁量で自由にレベルを上げたりスキルを取得したりできるってわけだ。
「俺には地味な『真理』が向いているよ」
「あはは、松井くんってやっぱり面白い」
成長させるのが楽しい、マゾ仕様大好きってわけじゃあないんだよ。最初から最強無双だと、調子にのって足元をすくわれる姿が容易に想像できる。
俺は小心者なだけに、突然ふって降りてきた俺最強、クラスメイトから賞賛されて気持ちいい、となれば有頂天になるよ……。
神崎君や榊君ならともかく、地味ぼっちには耐えられない誘惑だ。
そう、主人公になるべきでない者が主人公になってはいけない。そう思うとガチャってランダムじゃなくてその人にあったものが選ばれて出てくるのかもな。
それで「物知りなイルカ」である。ま、まあ、自分の性格と合っているのかもしれん。しかしだな、あの口の悪さを何とかして……いや、いいや、今更変わっても違和感しかない。
イルカは今もふよふよとカレー皿の前で上下運動をしている。
「何かご用ですか?」
「いや、特にない」
目が合ったから出番だと認識したのか、仕様が未だに良くわからんな……。
「……っち」
「こ、こいつ」
山田さんの前だから抑えた。どんどん生意気になってる気がするぞ、こいつ。信愛度メーターみたいなものがあるのかもしれん。
最近語り掛けることも少なくなったからなあ。何でもいいからこいつと雑談をする気にもならんし。
「あ、イルカと喋っているんだね」
「う、うん」
山田さんに変に思われてなくてよかった。
この後、カレーをタッパに頂き、部屋に戻る。
◇◇◇
時刻は深夜0時20分。少し早めにロビーに到着する。
なんと二人とも既に来ていた。
朝に二人に会い、山田さんにご飯をお呼ばれされ、そして今。一日にこれだけ人と接しているのっていつぶりなんだろうか。
朝は戸惑いが大きかったけど、慣れてきたのか今は悪い気がしていない。コミュニケーションゲージも成長した気がする。
「や、やあ」
俺が声をかけるより早く吉田君がソファーから立ち上がり近くにきた。
続いて山田さんも彼の左側に立つ。
あー、だいたい想像がついた。きっと吉田君が一番最初に来ていて山田さんが隣に座ったんだろうな。
これから一緒に冒険しようって二人が隣に座るのは自然なことである。通常なら、な。
二人きりで隣り合う席だとまごまごしてしまうよな、吉田君。君の気持ちは痛いほど分かる。俺ももう少し早くくればよかった。
「みんな揃ったからもう出ちゃう?」
「12時22分か、うん、行こう」
山田さんの問いに時間を確認して応じる。0時から20分以上過ぎているし、エレベーター前で以前見た人影にあうこともないだろう。
うおおおおおお。
「な、何、この声……」
「エレベーターだよ……」
エレベーターを見た時以上に驚く吉田君。このエレベータークソうるさいんだよね。
山田さんは特に表情や仕草に動きはないが、内心めっちゃ引いているのかもしれない。
「さあ、行こう」
エレベーターが到着し、いそいそと乗り込む。行先は1階だ。
1階に出たところであることに気が付く。二人とも無手だったことに。
いや、吉田君はショルダーポーチ、山田さんはリュックを背負っているけど、武器を持っていない。
俺のようにバックパックの中にバールが入っているのかも?