第14話 ぼっちにパーティはよろしくない
「俺の知らない間に色々起こってたんだなあ」
「そうね……いろいろ、ね」
山田さんは微妙な表情を浮かべ歯に物が詰まったような含んだ言い方で返す。
もう一方の吉田君も何かを言いかけて口をつぐむ。
こいつは協定に何かあったな。参加していない俺が口を挟むことじゃあないな。
正直、めっちゃ気になるけど、ね。
「松井くん、迷惑なのは分かっているけど、ダンジョンの1階まで案内してくれないかな?」
「もちろんだよ。急ぐこともなくなったし」
攻略組がいるとなれば、俺は周回遅れどころってもんじゃないほど後方から走っている。
先へ先へと急ぐ必要もなし。どこかで忍び足が通用しなくなるかびくびくしながら作業をこなしていた上、イルカからもこのまま進んでも超時間がかかると示唆されてげんなりしていたから気分転換にちょうどいい。こっちから彼に頼みたいくらいだよ。
「や、山田さんも行く?」
「いいの!?」
俺たちのよそよそしさもあって、誘われたことが意外といった様子の山田さんである。
会話するのが苦手なだけで彼女を仲間外れにしようなんて気はさらさらないのだ。もちろん、下心なんてものは毛頭ない。
俺と同じ陽のオーラが苦手な吉田君も、なんだかホッとしている様子で何より。接するのが苦手なのと、一緒に行かないのは別の話と彼も理解を同じくしているようで良かったよ。
他にも彼らから聞きたいこと、彼らも聞きたいことがあるだろうけど、そろそろ俺のコミュニケーションゲージが限界を迎えている。
なんだよ、そのゲージって? それはだな、普段から会話に慣れていない上級者の俺はコミュニケーションを取ればゲージが削れる。
説明になっていないような。要は一度に会話できる量に限界があるってことさ。
こんなんで道案内なんてできるのかと不安になってくるが、何事も経験値をためれば成長する。今後に期待ってことで。
◇◇◇
二人とは深夜の0時30分にロビーで集合の約束をした。
今更昼夜逆転にする必要はないのかも、と思ったが案内なんて初めてのことだし慣れている時間の方がいいかなって。
次回から二人ともそれぞれソロで1階に向かうことになるだろうから、一回だけ眠いのを我慢して欲しい。
外が明るいうちから風呂に入り、お気に入りの黒い炭酸水を……。
「風に当たりながら飲むのも乙なものだな」
炭酸水を開けようとし、思いとどまりテラスへ出る。
「やっほー」
「こ、こんちは」
炭酸水が入ったペットボトルを落としそうになった。だって、テラスにいたら声をかけられるなんて想定外過ぎるじゃない。
可愛らしい声の主はお隣の山田さんである。
「松井くん、もうご飯食べたの?」
「これから食べようかなって」
「そうだったんだ。髪が濡れているからお風呂あがりかなと思って」
「うん、風呂でさっぱりしてからと思って」
へへへ、と序盤でさよならするタイプの野盗とかがやるように後ろ頭をかく。
対する彼女は眩しすぎる笑顔でうんうんと頷いている。
「ちょっと待ってて。すぐ戻るね」
「う、うん」
あ、と口に手を当てて部屋に引っ込む彼女を見送り、思考がついていかない。
ま、まあ、炭酸水を飲むべし。
腰に手をあて、ごくんごくんと黒い炭酸水を飲む。炭酸がきつくてむせた。
「松井くん、面白い顔をしてどうしたの?」
「あ、いや」
彼女はお鍋を持って戻ってきていたのだ。思ったより早くて情けない姿を見せてしまったぜ。
「あ、お鍋のままだと多すぎるよね。分けてくる」
「あ、いや、そのままでも」
「いいの?」
「う、うん」
いいよ、がまさかそんな意味だったなんて……。
どうしてこうなった。まさか、彼女の部屋にお呼ばれすることになるなんて。
別にむふふんな状況ってわけじゃなく、彼女と一緒に食事をとることになったのだ。
というのはお鍋の中身が原因である。
あー、スパイシーな香りが食欲をそそるぜ。
「お待たせ! おかわりいっぱいあるよ」
「あ、ありがとう」
「お料理なんてしたことなくて、量も無茶苦茶で」
「う、ううん。ありがとう」
鍋の中身はカレーだった。鍋一杯のカレーとなると、一人で食べきるのはなかなか大変である。
料理かあ、俺もやってみようかな。炊飯器があるからご飯を炊くくらいはやってもいいかも。
カレー用のお皿まで用意してくれたのかな、それも二つ。注文すればすぐ出てくるけど、カレー皿とかスプーンを追加注文するとガルドも消費する。
「カレーなら誰でもおいしくできるって聞いたから」
とすんとカレーにスプーンが目の前に置かれ、もう辛抱たまらん。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせほっかほかのカレーを口に運ぶ。じゃがいも、にんじんが大き目に切られていてレトルトより断然うまい。
「おいしい! カレーはここにきてから何度か食べているくらい好きなんだ」
「よかった。カレールーがおいしくできているから、誰でもって本当だね」
「や、山田さんが頑張って作ってくれたからおいしいんだって」
「あはは。お世辞でも嬉しい。ただのカレーなのに気を遣わなくていいんだよ」
「そ、そんなつもりじゃ。お、おかわり欲しいっす」
「はあい。松井くん、こんなに喋りやすくて面白い人だったんだね」
そう言われましてもなんて応えていいのか困る俺である。今の俺にできることはおかわりをがつがつ食べるのみ。
食べているとテーブルに頬杖をつき、じっと俺を見ている彼女に気が付く。
「あ、あの」
「おいしそうに食べるなあと思って。ちょっと嬉しい」
「あ、あはは」
「そうだ、松井くん、スキルって知ってる? イルカに聞いちゃったかな?」
スキルのことは既にイルカに聞いている。イルカは物知りではあるが、こちらから聞かない限り何も教えてくれない。
なので、気づきを与えてくれるのはありがたいぜ。今回は知っていることだったけど、俺にはない視点や発想は自分じゃどうしようもないからさ。