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第13話 モブA

「吉田君、いつもの安心感はどこへ」

「安心感? 僕ほどモブに相応しい地味な奴はいないって」

「地味なら俺が最強SSSクラスだと自負している」

「松井君は僕のようにオタクな陰キャじゃないじゃないか」

 自虐する吉田君だったが、だまされないぞ。吉田君はお喋りじゃないかもしれない。だがしかし、俺でも緊張せず会話できるほどのお方なのだ。

 それに数十年前ならいざ知らず、今は誰でもアニメを見るし、ゲーム(特にソシャゲ)をやる。

「吉田君、恥を忍んでぶっちゃけるよ。俺、人と喋るのが苦手で、更に女子となると……これ以上言わなくても察して」

「僕も似たようなものだって。クラスで気兼ねなく接するのは男子だけだし、君と鈴木君くらいだって」

「俺に神崎君のようなコミュ力があれば……」

「神崎君、スポーツ万能だし、僕のようなオタにも優しいし、彼と榊君がいるからいじめもない素晴らしいクラスになっていると思う」

 うんうん、って神崎君の話をしている場合じゃないんだって。

 吉田君も俺と同じことに気が付いたようで、ハッとなっている。

 とすん、と俺と吉田君の肩に手が置かれ、山田さんがずずいと間に入ってきた。

「二人とも座らないの?」

 手を引かれ、ベンチに座る。俺、山田さん、吉田君の並びだ。

 彼女と肩と肩が触れそうで変な汗が出てきた。

「ち、近い……」

「ご、ごめんね、ちょっと強引だった」

「う、ううん、驚いただけ」

 こ、このまま喋り続けるのはちょっと、と思っていたけどふよふよ浮いている間抜けなイルカを見ていたら落ち着いてきたぞ。

 かといって口が動くわけでもない。う、うーんと。

「そ、そうだ、吉田君、ダンジョンに潜っていた話だけど」

「う、うん、松井君は『降臨』を引いたの? まさか、『神器』で?」

「どっちでもないよ。俺が引いたのは『真理』の自称物知りなイルカだ」

「自称ではありません」

 イルカが口出ししてくるがシッシと手で払う。

 真理という言葉を聞いた二人は真逆の反応を見せる。

「真理って……それじゃあ戦えないんじゃ」

「やっぱり真理だったのね!」

 首をひねる吉田君と両手を合わせ顔をほころばせる山田さん。

「ガチャで何を引いたとしても、できるようなことしかやってないって」

「いやいや、神崎君みたいに揺るがぬ精神力と高い運動神経に強い武器がないと無理だよ。それに、松井君はソロだよね?」

「50階ってそんなに過酷なのか……行かなくてよかった」

「それって?」

 どうも俺の話が吉田君に伝わっていない。あ、そうか。

「洋館からダンジョンに入った場所は50階なことは知ってる?」

「知らなかったよ。僕はダンジョンに入ったことがないし。攻略組の話も話半分しか聞いてなかったし」

 なるほど、なるほど。

 合点がいったよ。

「俺たちのスタート地点が50階だからモンスターが強いんだ。1階に行けば俺のような運動神経も武器もない凡人でもモンスターを倒すことができるんだ」

「なんだってええええ!」

「ノリ良すぎだろ」

「お約束かなって」

 ははは、と苦笑いし合う俺と吉田君。

 50階にいるという情報だけで、ゲーム好きの彼は何やら察したご様子である。

 キラーンと彼の眼鏡が光った気がした。クイッと得意気に眼鏡をあげる。

「50階……広いダンジョンを毎回毎回50階まで歩いて進んでいたらクリアは不可能。となれば、一息に階層を移動する手段があるはず。定番はエレベーター」

「おお、正解。エレベーターで1階まで移動して、50階に戻ってくる」

「未到達の階には移動できなくしないとゲームが成立しない。けど、最初から50階だから上のフロアへ移動することができちゃうってわけだ」

「察しが良すぎて怖い。その通りだよ」

 最初から最深部に降りることができるなら早々にクリアできちゃうものな。深い階層へ行くという発想はなかったけど、確かに行くことができる階層は1から50階の間である。

 これまで地味な二人に挟まれて話をふんふん聞いていた山田さんが口を挟む。

「松井くん、すごいねっ! エレベーターで1階に行ってガルドを稼ぐなんて。誰も思いつかないわ」

「エレベーターのことは俺じゃなくて、イルカが教えてくれただけだよ」

 右手で頭をかき、反対の手でイルカを指さす。

 しかし、二人にはイルカが見えていないようだった。考えてみればあれだけ自己主張しているおまぬけイルカが目に入らないわけはないか。

 見えていれば真っ先に反応しているって。

 今度は入れ替わりで吉田君が発言する。

「『真理』の物知りなイルカは僕らには見えないし言葉も聞こえないみたいだ。攻略情報を教えてくれる『真理』ってことかな?」

「攻略情報……とまではいかず、ヘルプ機能レベルかなあ。それでもゲームの仕様を知ることができるから助かる」

「そいつは便利そうだ。僕ら待機組でもガルドを稼ぐ手段があるなんて発見だよ!」

「聞かなきゃ教えてくれないから、まだまだ聞けてないことがあると思う。あ、あと、気になったことがあるんだけど」

「気になること?」

「うん、攻略組とか待機組って?」

 あー、と吉田君と山田さんが顔を見合わせるが、すぐに吉田君が目を逸らす。じっと見られたら恥ずかしいもんな。仕方ない、仕方ない。

「松井くん以外は初日に洋館のロビーに集まったの――」

 山田さんが驚愕の事実を語り始める。俺が眠っていた間にクラス会議が行われていたなんて。

 もし起きていたとしても人がいっぱいロビーに集まっていたとして……参加したかは微妙だな。寝ていようが寝ていまいが、俺には関係ない話だったようだ。

 話を戻す。

 クラス会議を提案したのは生徒会長の榊君。彼にクラスの潤滑油である神崎君が協力して部屋から降りてきた人たちを次々に呼び止め、俺以外のクラスメイトが集まった。そこで、開示してもいい人だけ各自引いたガチャの能力を簡単に説明したのだって。

 「降臨」を引いた四人と規格外の神崎君の五人が試しにダンジョンへ入って無事生還し、ダンジョンの様子を語る。

 結果、自分で動かずとも無双できる「降臨」じゃないとダンジョン探索は難しいとなった。神崎君のように武器の「神器」を持つ人も行けなくはないけど、本気でこちらの命を刈り取ろうとしてくるモンスター相手に萎縮せず叩けるのなら可能とも報告される。

 みんな武器なんて扱ったことなんてないし、萎縮しないってのも無理だから、ダンジョンへ潜ることを諦めた。

 こうしてダンジョンへアタックする5人を攻略組、それ以外を待機組と呼んでいる。

 併せてクラス会議で攻略組がガルドを稼ぎ、待機組にも分配する協定が結ばれた。待機組は待機組で攻略組のサポートができる人はサポートする。

 正直、不遇なガチャを引いた人が飢えないようにする協定を結んだってのに驚いた。榊君と神崎君の人徳だろうな。二人とも攻略組だからこそ成立した協定と言えよう。

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