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第12話 免許皆伝の俺から言わせれば

 ぼっち免許皆伝の俺に会話相手がいるのかって? いるだろ! 俺も忘れかけていたが、いるだろ。

「いますいます」

 そう、宙にふよふよ浮く自称「物知りな」イルカだ。

「自称ではありません。私のステータスにきっちり書いています」

「聞いても無いのに……」

 11階からは罠が怖くて宝箱に触れていなかったから、ますます作業感が強くなってさ。新しく確認したいことも知りたいこともなくなり、イルカに声をかけることもなくなっていた。視界にずっと入り続けているのだけど、慣れって怖いよな。気にならなくなっていてさ。

 部屋でも特に用がないイルカに喋ることもなかった。

「イルカ、誰でもクリアできるんだったよな?」

「できますできます」

 このまま虚無で進み続ければいいってことか? 一気に50階まですっとばすのも手かもしれん。

 しかし、15階で大丈夫だからといって50階でも余裕ってわけでもないからなあ。忍び足で気が付かれないだけで、忍び足無効のモンスターが出てきた時にこちらのレベルが低かったら詰む。なら、なるべく低い階層で試して行った方が確実なんだよな。作業感が強くてもレベルはあがるわけだし。

 現在のレベルは52。50を超えたところでなかなか上がらなくなってきていた。

 ん、待てよ。イルカの言うことに嘘はないことはこれまでの奴の回答が全て正しかったことからまず間違いない。

 レベルとスキルの選択がハマれば進み続けることはできそう……ではある。しかし、しかしだ。

「このまま進んだとして、クリアまでどれだけ時間がかかりそうだ?」

「計測不能です」

「計測不能って、一年か? 二年か?」

「計測不能です」

 こ、こいつ。壊れたスピーカーみたいに繰り返しやがって。

 誰でもクリアできる「可能性がある」ことは確か。ただ、どれくらいの細い道なのかも分からん。

 俺はまだ本来のスタート地点である50階にも到達していない。

 フロアは広すぎるし、蜘蛛の糸を手繰り寄せるところまでもまだ到達できていない俺であるが、急に虚しさを覚えそのままエレベーターに乗り、外へ出た。

 シャワーをあびたらぼーっと寝転んでいると久しぶりに夜にぐっすり寝てしまう。

 

 そして、目が覚めたら外は明るくになっていた。時刻は10時過ぎ。ダンジョンに行く前にも寝ていて、夜も寝てってどれだけ寝てんだよ。

 虚無の日々だったけど、歩き続けていたわけだしきっと疲れていたんだろう。

「ふああ。生活していく分にはガルダは十分だし。ガルダが目減りしても1階だけですぐに取り戻せるしなあ……」

 んーっと伸びをしてシリアルをもしゃもしゃ食べ、ストレッチをっと。

 気持ちが落ちた時は気分転換するに限る。天気も良いし、ダンジョンじゃなく外へ繰り出すとするか。

 おにぎりとペットボトルを持ってお出かけだ。

 散歩といっても、洋館がある狭い台地の中しか移動できないんだけどね。切り立った崖になっているし、来た道は一方通行で台地から先に戻ることはできない。

 正確には台地に出た入口が無くなっている。

 

「こいつは嬉しい誤算だった」

 洋館の入口からぐるっと回り込むと、洋風の庭があったんだよね。

 ちょっとした庭なのだけど、薔薇の植え込みにベンチ、テーブルまである。

「お」

 更に水が出ていないけど噴水もあった。

 もう少し散策してから持ってきたおにぎりを食べようっと。こいつはいい気分転換になりそうだ。

 ふんふんー。ご機嫌に歩いていたら急に後ろから声をかけられビクっと肩が上がる。

「松井君? 松井君じゃないか!」

「……吉田君か」

 声の主は俺に唯一親しく喋りかけてくれる吉田君だった。悲しい習性で咄嗟に距離を取ろうと走りかけたのは秘密である。

 相手が吉田君じゃなかったら危なかった。

 吉田君は耳にかかるくらいの黒髪で賢そうな眼鏡をかけている。服装も制服姿のままで初日に会ったあの時のままで安心感が半端ねえ。

 俺にとってクラスでまともに喋ることができるのは彼と剣道部の神崎君くらいなのだが、俺でも一切プレッシャーを感じない吉田君の方が圧倒的にコミュニケーションが取りやすい。

 神崎君は教室を出る時に手を貸してくれたり、眩しすぎる陽の者なのだがコミュ力がすごくて誰にでも優しいから何とか会話ができるって感じかな。

 今回の謎転移が一つの物語としたら、神崎君か生徒会長の榊君が主人公なんだろうけど、俺としては神崎君を推すね。

 まごまごしている俺に対し吉田君は無理に語り掛けてこようとはせず、近くにあった椅子に腰かける。俺も彼に続く。

 彼とは無言の時が続いても何故か緊張することもないんだよね。

「松井君、無事でよかったよ」

「なんとかやってるよ」

「何とかって松井君はこれまで何をしていたんだ?」

「ダンジョンに潜って、ガルドを稼いでたりしていたよ」

「え、ええええ!」

 驚き過ぎだろ! 運動はあまり得意じゃない俺だけど、鈍重なペーパーゴーレム相手なら問題ない。

 忍び足もあることだし。

「あ、松井くんだ!」

 聞き覚えのある女の子の声。俺が聞き覚えのある女子って一人だけだから特定余裕だぜ。言ってて悲しくなってきた。

「お邪魔だった?」

「あ、あ、いや」

 な、何故わざわざベンチの前にしゃがみ込んで見上げてくるんだよ!

 立ったまま喋りかけたらいいじゃないか。いたたまれなくなった俺は立ち上がり、彼女をベンチに座るように促す。

 すると、彼女が座るどころか吉田君も立ち上がってしまった。吉田君、驚きフリーズから再起動したのはいいのだが、何か喋って……。

「……」

「……」

 俺も吉田君も無言である。山田さんを直視できない俺は吉田君へチラチラと目配せするが、彼もまた俺と同じ「何とかして」という空気を醸し出していた。

 そんな俺がとった行動は吉田君との作戦会議である。

 察してくれた彼と二人で山田さんと距離を取り、こそこそと会話を交わす。

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