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第94話 静かなる証明

フィルメリア中央書院・南研究棟。そこは魔術と科学、信仰と理性が交錯する知の交差点だった。


リクとユウは、アルマ・ベレルの案内で第三観測室へと通された。天井の高い石造りの実験室には、魔力計測装置と複数の結界術式が張り巡らされ、中央の石盤にはひとつの魔法陣が刻まれていた。


「ここで、影との共生実験を行います。ユウ君、準備はいいかしら?」


アルマの声音は冷静だったが、観察者としての興味が隠しきれていなかった。


「……はい。大丈夫です」


ユウの瞳は少しだけ揺れていたが、その言葉には覚悟が込められていた。リクはそっと肩に手を置く。


「無理はするな。危なくなったらすぐ止めろ」


「うん……ありがとう」


観測装置が起動し、空気が震える。ユウが魔法陣の中心に立ち、自身の影に呼びかけると、その輪郭が淡く光り始めた。


──反応あり。影が共振しています。


「記録開始。魔力振動数……正常域内。自律制御反応、継続中」


周囲の研究者たちが一斉にメモを取り、時折互いに囁き合う。リクはその様子に警戒を抱きながらも、ユウの姿を見守り続けた。


「影は今、君の意志に応じて形を保ってる。つまり……もう制御不能な存在じゃない」


アルマが感心したように頷いた。


「これは確かに……影との完全同調。実に安定した精神リンク。リクさん、あなたの指導が功を奏したようですね」


だが、リクは口元を引き結んだままだった。


──この部屋、何かが……妙だ。


影がざわついていた。まるで、外部から何かを探ろうとする“視線”が、どこかに潜んでいるように感じられた。


そのとき、研究者の一人が手元の記録板を強く握りしめ、硬直する。


「……おい、データが……」


「振動値が急上昇? いや、違う。これは……外部干渉?」


突然、室内の照明が揺れ、影が床を這うように波打ち始める。


「ユウ、下がれ!」


リクが叫ぶと同時に、魔法陣の周囲に張られた防壁が一部崩れ、そこから“別の影”が入り込んできた。


「侵入反応!? セキュリティ障壁を突破……いや、内部から解放された?!」


アルマの声にも動揺が混じる。研究者たちが逃げ惑う中、一人の男が観測機の陰から姿を現した。


「これで“証明”できる。影は制御などできない、我々が恐れるべき災厄だと──」


それは書院の魔力解析部主任・ヴァルス。長年中立を保ってきたはずの彼が、異形の影を召喚していた。


「貴様、裏切ったのか……!」


「裏切り? 違うな、私は“選んだ”のだよ。王国の意志に従うことを」


その言葉に、リクの中で全てがつながった。王国は、影の力を“管理不能な災厄”として処分対象にすることで正当化しようとしている。ユウはその生ける証拠として。


──これは“粛清”だ。


「ユウ、構えるな。その影はお前の命を否定しようとしている」


ユウの影が防御態勢に入り、異形の影とぶつかり合う。結界の中で影同士の戦いが始まった。


「アルマ! この部屋から出る道は!」


「北側の魔力窓口が緊急時に開きます。あと10秒……持ちこたえて!」


リクは影狼を召喚し、ヴァルスの影を撹乱する。ゴルムも応じて影を広げ、視界を遮断する。


──時間は稼げる。だが、これが書院内部の“答え”なのか……?


「リク、僕、怖い……でも、戦うよ」


ユウの声に震えはなかった。


「怖くていい。大事なのは、その恐怖を“誰かのために使う”ことだ」


魔力窓口が開き、リクとユウはアルマとともに飛び出した。背後では結界が閉じ、ヴァルスの怒声が遠ざかっていく。


だが、リクの心には新たな疑念が刻まれていた。


──この街も、完全ではない。影を受け入れると見せかけ、その存在すら“管理”しようとする者がいる。

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