表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/231

第90話 追撃の牙

黒月の谷に静寂が戻ったのも束の間だった。


リクたちはユウを囲みながら、しばしの安堵を噛みしめていた。ユウはまだ意識が朦朧としていたが、その頬には確かに人間としての温もりが戻っていた。


「……これで、ようやく終わったのか」カイルが息を吐いた瞬間だった。


――ドンッ!


大地が揺れ、谷の入り口付近から轟音が響く。次の瞬間、黒い装甲をまとった兵士たちが雪崩れ込んできた。


「王国影抑制部隊、第七分隊。対象はリク・ハルトとその協力者。無抵抗での投降を命ずる」


前列に立っていた兵士が、魔導音声を通じて淡々と告げた。


「やっぱり来やがったな……」クローネが唸る。


「時間稼ぎは失敗だったか……!」


リクは立ち上がり、仲間たちに目配せをする。


「ユウを守る。まずは撤退を最優先だ」


「だが包囲されてるぞ、北側の斜面まで来てる!」カイルが叫ぶ。


「……だったら、俺が囮になる」リクが影を纏いながら言い放った。


「ふざけるな、一人で行かせるわけには!」


「俺たちが“チーム”だって、お前が言ったんだろ」


その言葉に、カイルが口を噤む。そして、エリナが一歩前に出た。


「ユウの護送は私がする。リク、前線の指揮を頼む」


「了解だ。クローネ、転移陣の起動準備を。あの谷の東端に残ってた遺構、使えるだろ?」


クローネが頷き、魔導具を取り出して陣の構築を始める。


「発動まで五分かかる。その間、持たせろよ!」


リクの影が咆哮を上げるようにうねり、空間を裂いて兵士たちの陣形に干渉する。光ではなく“影の波”が地を這い、王国兵たちの魔導具を狂わせていく。


「影障害発生! 第三班、反時計回りに展開しろ!」


だが、王国の部隊は精鋭だった。すぐに編隊を切り替え、リクたちを三方から囲みにかかる。


「クローネ、まだか!?」


「あと三十秒!」


そのとき、空から降るようにして、一人の男が舞い降りた。


「……やっぱり君たちは“止めなきゃ”いけない存在なんだね」


金髪の影が、黒衣の風に揺れる。セインだった。


「お前……まだ生きてたのか」


「当然。僕は“計画の核”なんだから」


セインの掌に宿るのは、黒と赤の混じった奇怪な魔力。それはかつてユウが放っていたものに酷似していた。


「まさか……お前、“第零式の因子”を移植されたのか!?」


「その通り。君たちのおかげでサンプルが手に入った。……実に素晴らしい成果だったよ」


セインが手を掲げると、空気が引き裂かれ、複数の影獣が召喚される。その一体一体が、まるで“意志”を持ったかのように行動を始めた。


「これが、王国が求めた“進化”だ。君たちは、それを阻もうとしている」


リクは静かに剣を構えた。


「違う。俺たちは、影を“生かす道”を選んだ。お前はただ、影を殺して利用しているだけだ」


「感情で世界は変えられないよ、リク」


「だが、感情なしの世界に未来はない!」


リクの影が燃えるように爆ぜ、仲間たちの後ろに巨大な狼の影が浮かび上がる。


「転移陣、起動!」


クローネの叫びと同時に、一行はユウを中央にして光の柱に包まれた。


「逃がすかああああッ!!」


セインの叫びと同時に、黒雷のような影の槍が放たれる。だがそれは、リクが影壁で受け止めた。


「これは、希望のための退却だ!」


そして光が弾け、一行はその場から姿を消した。


影だけが、谷の残骸に、なおも静かに揺れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ