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第84話 対価の果て

森に沈む夕闇が、血の色に染まりはじめていた。


リクは静かに息を整えた。影が足元で脈打ち、セインの一団と向かい合う。


「ずいぶんと整った面構えになったな、リク。だが、その目はまだ甘い」


セインの横には、かつてリクと同じ訓練を受けた冒険者たちが立っていた。シグルド、レナ、ダリル──ギルドの内部で不正に手を染め、表の任務から姿を消した者たち。


彼らの腕には共通して、漆黒の紋章が浮かんでいた。


「……それ、まさか……影因子の移植痕か?」


リクの言葉に、セインはにやりと笑う。「よく気づいたな。ああ、これは君の父親の研究の“完成形”だ」


「父の……技術を盗んでおきながら、それで何を得ようというんだ」


「得たさ、力を。支配する力をな。影を従えることは、世界を制することに等しい」


レナが冷たい声で続けた。「私たちは選ばれた。強さだけが正義。そうだろう?」


その瞬間、リクの足元から影が炸裂し、矢のような鋭い線をセインへと放つ。


セインは一瞬でそれを回避し、手を掲げると自らの影を武器化した。巨大な槍のようなそれが、リクへ向けて突き立てられる。


「来い、無価値くん!」


「影狼、迎撃!」


リクの命令と同時に、影狼が地を這うように飛び出し、槍を弾いた。


その間隙を縫って、ゴルムの影が地中から立ち上がり、セインの足元を封じる。


だがシグルドが割り込み、巨大な鉈を振り下ろしてゴルムを吹き飛ばす。


「クソッ、やっぱり力で押してくるタイプか……」


リクが歯を食いしばったその時、後方でエリナの呪文詠唱が完成した。


「──『照破の結界』!」


眩い光が周囲を包み、セインたちの影の武装が一瞬だけ弱まる。


「今だ、カイル!」


「任せろ!」


カイルが跳躍し、影を纏わせた剣でダリルに斬りかかる。交差した一撃は火花を散らし、互いに吹き飛ぶ。


「やるじゃないか。だが、君たちじゃ……この“現実”は変えられない!」


セインが叫ぶと同時に、自身の影を暴走させる。


地面が揺れ、木々が枯れ、空間が歪んだ。


「やめろ……そんな使い方をするな! それは、影じゃない……呪いだ!」


リクの叫びに、セインは顔をしかめる。


「理想論で世界が変わるかよ。お前の父親だって、最後には“結果”の前に折れただろうが!」


「違う! 父は最後まで……人と影が共に生きる道を探してた!」


リクの影が再び揺れ動く。怒りではない。覚悟だった。


「俺は……“対話”で影を従える! 誰かの犠牲じゃなく、自分の声で!」


その言葉とともに、リクの影が形を変え、巨大な狼の形を取った。以前より遥かに濃密な魔力を纏い、セインの暴走する槍と衝突する。


激しい衝撃音が森に響き、両者の魔力が拮抗する中、セインはわずかに目を見開いた。


「……本当に、従ってる……だと……」


その瞬間、リクの影がセインを突き飛ばし、彼の影武装を完全に剥がす。


セインは地面に倒れ、荒く息をついた。


「クソ……まだ終わってねぇ……」


だがリクは剣を振るわず、静かに告げた。


「終わってるよ。お前の“力”は、誰も救わなかった。俺の影は、俺が信じたもののために動いてくれる。お前のそれとは違う」


セインの目が揺れた。


そして、森に沈む夕日が、その影を静かに吸い込んでいった。



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