第80話 影に濡れる村
村の広場に残るリクを囲む視線は、冷たい石のようだった。
アレンは一歩、リクに近づく。その足音には怒りでも懐かしさでもない、計算された威圧がこもっていた。
「なあ、リク。今さら戻ってきて、謝罪でもしたいのか? それとも、昔の栄光を見せつけに来たのか?」
「違う。俺は――」
「違う? そう言って何が変わる? 村に災いを持ち込んだお前が、影とともに戻ってきた。それだけで十分だろ」
その言葉に村人たちがざわつく。
ミリアが口を開く。「この村はね、ようやく安定しかけてるの。影を持つ者が戻れば、また商人たちは離れ、ギルドも警戒する。あんた一人の都合で、私たちの生活が壊されていいはずない」
リクは黙って彼女を見つめる。その瞳の奥にあるのは、怒りではなかった。ただ、深く静かな決意だった。
「なら聞く。リナがなぜ死んだのか、父と兄がなぜ殺されたのか。お前たち、本当に知らないのか?」
空気が一瞬だけ張り詰めた。
アレンが鼻で笑う。「……知らねぇよ。あれはお前のせいで起きた“事故”だろ?」
その言い方には、明らかに悪意があった。リクは心の奥で、確信に近い感覚を覚える。
――何かを、奴らは知っている。
だが今は、動くときではない。
「……そうか。なら、調べさせてもらう。俺はここで、過去と向き合う」
「勝手にしろ。だが村の規律は守ってもらう。暴れたら……処分する」
アレンが言い放つと、村人たちは散っていった。だが背後からの視線は、なおもリクを監視している。
その夜、リクは村の外れの空き家に泊まることにした。月明かりの差す床に腰を下ろし、背後の影に語りかける。
「……やっぱり、あのときと何も変わってない」
影が微かにうねる。それはまるで、主の心を慰めるような動きだった。
ふと、扉が静かに開いた。
「……入ってもいいかしら?」
入ってきたのは、エリナだった。彼女は気配を消すように慎重に歩き、リクの隣に座る。
「あなたが一人で耐えようとするの、分かってる。でもね、私も知りたい。あの村で何があったのか」
リクはしばらく黙っていたが、静かに頷いた。
「……ありがとう。まだ道の途中だ。でも、きっと何かが見えてくる」
その時、影がかすかに揺れた。遠く、村の北の森から、異様な気配が漂っていた。
「……誰かが、来ている」
その予感は、これから巻き起こる新たな陰謀の始まりだった。
リクの影が、静かに膨らんだ。
闇はまだ、何も終わってなどいなかった。




