第79話 村の目、過去の声
エルト村の入り口に足を踏み入れたとき、リクは懐かしさではなく、肌を刺すような視線を感じた。
かつてと変わらぬ石畳の通り、風に揺れる木々、そして村を包む静寂。だが、村人たちの目は冷ややかだった。
「……あいつ、戻ってきたのか」
「また、何か災いを持ち込む気か」
小声で囁かれる言葉が耳に届く。だがリクは顔を上げ、ゆっくりと歩を進めた。
広場に差しかかったところで、声が響いた。
「リク……!」
振り返ると、そこにはアレンがいた。少年の頃よりも背が伸び、屈強な体格になっていたが、その眼差しはあの頃と変わらないままだった。
「なんのつもりだ、今さら戻ってきて……!」
アレンの背後にはミリアの姿もあった。彼女もまた、かつての面影を残しながらも、どこか影のある表情を浮かべていた。
「災厄を連れてきたの? また、誰かが死ぬの?」
リクは目を逸らさず、静かに答えた。
「俺は、過去と向き合うために来た。それだけだ」
「向き合う? 今さら?」
アレンの拳が震える。
「お前がいなくなったあと、どれだけの人間が苦しんだと思ってる!」
広場に集まっていた村人たちが、次々とリクを囲む。
それは歓迎でも、懐かしさでもなく。
“断罪”の空気だった。
だがリクは、一歩も引かずに言った。
「俺が背負うべきものなら、全部受け止める。だけど……真実を知らずに怒るなら、まず話を聞いてくれ」
その言葉に、村の空気が一瞬だけ揺らいだ。
リクはゆっくりと拳を握りしめる。
「リナがなぜ殺されたのか。父や兄がなぜ狙われたのか。それを確かめるために、俺はここに来た」
静寂の中、ミリアの目が微かに揺れた。
新たな対立と、まだ知らぬ真実の扉が、いま静かに開こうとしていた。




