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第7話 森を後にして

鋼殻蜂との戦闘で疲れ切ったリクは、ゴルムと影狼を連れて森の出口を目指した。足取りは重く、体中に疲労が蓄積している。冒険者の助けがなければ確実に命を落としていただろう。


「スキル……戦闘職が使う技術か。」


先ほどの冒険者の剛刃斬が脳裏に焼き付いていた。あの一撃は、これまで見たどんな攻撃とも違い、圧倒的だった。


「俺も、あんな風に戦えれば……。」


自分の未熟さと、魔物使役という特殊な道を選んだことへの不安が胸をよぎる。しかし、彼にはもう一つ気になることがあった。


「魔物使役の代償……このままじゃ、いずれ俺が持たないかもしれない。」


戦闘中、何度も魔物を強化する術式を使ったことで、リクの体はひどく消耗していた。頭痛と倦怠感が引かない中で歩き続けるのは、容易ではなかった。


ゴルムが心配そうにリクの足元を歩き、影狼も静かに後をついてきた。二匹の魔物もまた、激戦で疲労している。


「ありがとうな、二匹とも……。俺がもっと強ければ、こんなに苦労させることもなかったのに。」


リクは二匹の頭を撫でながら、森を抜けた。


森を抜けたリクは、その足で近くの町へと向かった。これまでは村にあるギルドの支部で簡単な依頼を受けるだけだったが、本部となる町のギルドに足を踏み入れるのはこれが初めてだった。


「ここが……本部のギルドか。」


ギルドの建物は、村の支部とは比べ物にならないほど大きく、外壁は頑丈な石造りだった。冒険者たちの出入りも激しく、町の一角に活気をもたらしている。リクは建物の前で立ち止まると、その場で膝をついた。術式を繰り返し使用した代償で、全身に倦怠感が広がっている。


「少し……休まないと……。」


そう呟きながら、体を壁にもたれかけさせた。ゴルムと影狼も疲れた様子で彼の隣に座り込む。彼は心の中で自分に言い聞かせた。


「限界を超えたら、魔物たちも守れなくなる……術式の使い方を見直さないと。」


「それにこんな立派な場所で、俺なんかが本当に受け入れてもらえるのか……。」


不安を感じながらも、リクは意を決して重い扉を押し開けた。


ギルドの内部はさらに賑やかだった。広いロビーには冒険者たちが集まり、酒を飲み交わす者、依頼の内容を確認する者、鍛冶屋で装備を修理する者が入り乱れている。村の支部では考えられないほど多種多様な人々が行き交っていた。


「これが……本当のギルドか。」


リクは圧倒されながらも、受付に向かった。受付には、柔らかな微笑みを浮かべた若い女性が立っていた。彼女の淡い金髪が、ギルドの忙しい雰囲気の中で穏やかさを際立たせていた。


「こんにちは。依頼かしら? それとも冒険者登録?」


「……新しく冒険者登録をしたいんです。」


リクが答えると、女性はほほえんで優しい表情を見せた。


「それでは、こちらの用紙に名前を記入してください。このあと適性検査を経て、問題がなければ正式に登録になるわ」


「えっ、支部では名前だけで……そんな登録が必要なんですか?」


リクが戸惑いながら問いかけると、受付の女性は軽くため息をついた。


「村の支部では仮登録だけど、本部で正式登録を完了すれば、より高ランクの依頼が受けられるようになるのよ。」


ギルドの受付係は親切そうに説明しながら、リクに記録用の紙を渡した。


「登録って、そんなに違うんですか?」


リクは戸惑いを隠せなかった。これまで村では依頼をこなしていたため、正式登録が必要だとは思いもしなかった。


「ええ、仮登録だけだと記録が不十分だから、評価もされにくいの。それに、適性検査を受けることで自分の能力や向いている職業も分かるのよ。村の支部でも説明があったはずだけど…」


「そんな……。俺、一応ちゃんと活動してたつもりだったのに。」


「まあまあ、落ち込まないで。ちゃんと登録すれば、ここからが本番よ。」


しかし、リクはただただ忘れているだけだった。村の支部でも説明を受けており


「リク、お前も本部で登録を済ませたらどうだ?」


と支部の職員が、依頼書を手渡しながら提案していたが、リクはしばらくは村での活動で十分だと考えていたため、その提案を後回しにしていただけだった。


女性は微笑みながらやさしく説明してくれる。


「まずは名前を教えてくれる?」


「リク・ハルトです。」


「リクさんね。では、登録には適性を見る必要があります。こちらに少しお待ちくださいね。」


そう言うと、彼女は訓練場へ案内するための教官を呼びに行った。間もなく現れたのは、頑丈な体つきの男性だった。


「俺が教官のグライスだ。本部の適性検査では、体力、戦闘能力、戦術判断の三つを評価する。もちろん、お前が魔物使いなら、その能力も含めてな。」


リクは頷き、グライスに従って訓練場へ向かった。彼は緊張しながらも、自分の力がどこまで通用するのか試されることに内心期待していた。


リクは女性に軽く頭を下げ、グライスに従って訓練場へ向かった。


訓練場に到着すると、そこにはさまざまな武器が用意されていた。剣、槍、弓、短剣など、どれも手入れが行き届いている。


「まずはこれを持ってみろ。」


グライスが指差したのは剣だった。リクはそれを手に取り、試しに振ってみた。しかし、その重さに振り回されてしまい、うまく扱えない。


「剣は向いてないな。次だ。」


次に槍を手にしたが、それも同様に扱いがぎこちない。次に手にした弓は、彼の中で何かしっくりくる感覚を得た。


「弓か……試しに射ってみろ。」


リクは緊張した面持ちで矢を構えた。教官のグライスが腕を組んで見守る中、リクは初めて矢を放つ。


「くそっ……。」


矢は的の端にかすり、ほとんど効果的ではない。


「力が入ってる。もっと肩をリラックスしろ。」


グライスの助言を受け、リクは何度も試行錯誤を繰り返した。数日後には的の中心に近づけるようになり、さらに自分の力加減をコントロールする感覚を掴み始めた。


「ほう、悪くないな。次に短剣も試してみろ。」


短剣を手にしたリクは、その軽さと素早さに驚いた。いくつかの訓練を行うと、彼の動きが自然であることに気づいたグライスは軽い武器で素早く動く方法を学ぶため


「お前の影狼と模擬戦をやってみろ!影狼の攻撃をかわすつもりで動け」


と言われ、何度も転んだり打たれたりしながら、リクは次第に素早い動きと武器の扱いを身につけていった。


「どうやらお前には弓と短剣が向いているようだ。狩人か盗賊、あるいは暗殺者の適性があるな。」


「狩人や盗賊……。」


リクはそれらの職業に自分が馴染むかを考えながら、納得した表情を浮かべた。


その日の訓練が終わった後、グライスはリクを呼び止めた。


「お前、魔物使いなんだろう? ゴルムと影狼を連れているのは見れば分かる。」


「はい……でも、あまりうまくいかなくて。」


グライスは顎に手を当てて考え込んだ。


「魔物使役は万能じゃない。お前のように亡霊系の魔物を扱う奴もいれば、火や風、水系に特化する奴もいる。そして、適性がない魔物を無理に使役すれば、負担が大きくなるだけだ。」


「適性……?」


グライスはリクをじっと見つめながら言った。


「お前には亡霊系、特に影系が合っているんだろう。影系魔物は、目立つ力じゃないが、隠密や策略に長けている。そして、それを引き出せるのは観察眼のある奴だ。」


リクは驚いた顔をした。


「俺が……観察眼?」


リクは村の片隅でひっそりと生きていた。誰からも期待されることはなく、いつも人々の視線を避けるように動いていた。けれど、そのおかげで彼は周囲の細かな変化を察知する能力を身につけていた。


「そうだ。お前、村の中でずっと自分が目立たないようにしてきたんじゃないか? けど、それは逆に周囲をよく見ていた証拠だ。影系魔物はそんな奴を好む。」


リクは自分の過去を思い返した。確かに、目立つことは苦手だったが、その分、周囲の変化や人の気持ちには敏感だった。


「……だから、ゴルムや影狼が俺に従ってくれるのか。」


グライスは頷いた。


「そういうことだ。お前の影のような存在感が、影系魔物にとっては居心地がいいんだろうな。」


リクはグライスの言葉にうなずきながら、自分の道を考え始めた。


「万能型の魔物使いっていないんですか?」


「歴史上、存在するかもしれないが記録はない。だから、お前も自分の特性を伸ばすんだ。万能を求めるな。」


リクはその言葉に深く考え込んだ。そして、ゴルムと影狼を見つめながら言った。


「俺は亡霊系に適性がある。なら、それを最大限活かせる戦い方を見つけるしかない。」


グライスは満足そうに頷いた。


「それでいい。強くなるのはお前自身の選択次第だ。」


その言葉にリクは新たな決意を胸に抱き、再び訓練場へ向かった。


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