第78話 再会の刃
四年という歳月は、人を変えるには十分すぎる時間だった。
かつて“無価値の魔物使い”と蔑まれたリク・ハルトは、今や分断地帯を束ねる統治者として人々の信頼を得ていた。彼の背に寄り添う影の獣たちは、威圧ではなく守護の象徴となり、都市の民たちは影を恐れず、むしろ敬意を持つようになっていた。
だが――変わらぬものもあった。
エルト村。
リクが生まれ、そしてすべてを失った村。
その村を、再び訪れることになったきっかけは意外なところからだった。
冒険者ギルドのカイルとエリナ、かつて共に修行を積んだ仲間たちとの再会。
四年ぶりに再開された定期会合。リクは都市の政庁で彼らを迎えた。
「久しぶりだな、カイル、エリナ」
「おいおい、統治者様がこんなに気さくでいいのか?」
カイルが冗談混じりに笑い、エリナがそっと瞳を潤ませた。
「ほんとに、立派になったね……あの頃が嘘みたい」
「変わったのは俺じゃない。俺を信じてくれた人たちが、俺を変えてくれた」
穏やかな空気の中、しかし話題はすぐに緊迫したものへと変わっていく。
「実は……エルト村で不穏な動きがある」
エリナの言葉に、リクの表情がわずかに強張る。
「アレンとミリア、覚えてる? あの二人が、最近村で“影の魔物が再び現れた”って騒いでるの」
「……影、だと?」
カイルが補足する。
「昔、リクの影が暴走した事件があったろ? 村の連中は、あれをずっと根に持ってる。今また“影を纏う者が村に近づいた”って噂が広がっててな。完全にリクの仕業だと思い込んでる」
リクは沈黙した。だがその瞳には、かつての弱さはない。
「行くしかないな。俺の過去と向き合うためにも」
カイルは即座に反応する。
「なら俺も同行する。お前を放っておけるかよ」
エリナも頷いた。
「私も。リクが一人で背負うことじゃないよ」
だがリクは、ゆっくりと首を横に振った。
「ありがとう。でも……これは、俺自身が歩くべき道だ」
決意を込めたその言葉に、二人は何も言えなくなった。
そしてその夜、リクはかつての故郷――エルト村への旅支度を始めた。
その影は、彼の意思と共に静かに揺れていた。
再び訪れる“はじまりの地”。そこで明かされる過去。
そして、今なお残る村の闇が、リクを待っていた。
その幕開けが、静かに始まる――。




