第71話 影の迷界
眩しい光とともにリクの視界は白く染まり、次の瞬間には、彼は見知らぬ場所に立っていた。
空は灰色に濁り、地面には影がゆらめいている。木々はねじれ、風は逆流するかのように吹いていた。
「ここは……どこだ……?」
影狼とゴルムの姿はなかった。リクは思わず地面に手をつき、呼吸を整えた。足元に転送陣の残滓がかすかに残っている。
(あの陣、単なる転送じゃなかった……。俺を狙ってた?)
辺りを警戒しながら、リクはそっと短剣に手を伸ばした。その刃がかすかに黒ずんで見えるのに気づく。
「影の……力がここでは濃いのか?」
突如、声が響く。
『ここは"影の迷界"。生者の思考と記憶が形をなす、迷いの空間――』
リクが身構えると、朽ちた神殿のような建物の影から、黒いフードの人物が現れた。
「誰だ?」
「お前に興味がある者……とだけ言っておこう。」
その人物の手には、リクがかつて見た紋章と同じ形の石板が握られていた。影にまつわる古代の遺物。
「影の力を持つ者よ。この世界に取り込まれれば、やがて自我を喰われるぞ。」
「お前はその喰われた奴か?」
黒フードは笑った。
「いや、俺はここに"留まる"ことを選んだ者だ。だが、お前は違う。外の光を知っている。」
「なら、出口を教えろ。」
「簡単には出られない。ここはお前自身の影が形を成す世界。お前が否定したもの、逃げたもの、誤魔化してきたものが、すべて敵となる。」
その瞬間、辺りが歪み、足元から黒い影がせり上がってきた。
影狼のようで、影狼でない。
かつてリクが命令をためらい、犠牲を出しかけたあの戦い――あの時の影狼の姿を模した存在が立ち上がる。
「影が……俺の過去を引きずり出してくるのか……」
リクは短剣を構えた。
「いいだろう……なら、切り裂いて進むだけだ!」
影と過去が交差する迷界の中で、リクの戦いが始まる。
その刃は、自分自身への問いと、未来への扉を切り開く鍵となる。




