第70話 仕掛けられた罠
ギルドの作戦室には、わずかな灯火のもとリクと数名の幹部が集まっていた。
魔族の潜伏が確実となった今、街の安全は風前の灯だ。
「地下排水路はあくまで通路にすぎない。奴らの目的地は、もっと上……」
リクの言葉に、金ぴかが腕を組んでうなずく。
「……市政区か、もしくはギルドの中枢そのもの。やはり内政に食い込もうとしてるのかもしれんな。」
「だとすれば……次に狙われるのは?」
「市庁舎だろうな。資料室には古代文献、封印記録、それに……『遺産候補地』の地図も保管されてる。」
リクは即座に決断を下す。
「囮を使う。俺が影狼とともに資料室に“入り込んだフリ”をする。奴らが釣られたら、ゴルムたちが外で包囲。完全に閉じ込める。」
金ぴかが苦笑を浮かべた。
「囮役が豪華すぎるな。まったく、命がいくつあっても足りんぞ。」
「だからこそ俺がやる。やつらと同じ"気配を消す"力があるのは、俺だけだ。」
その夜――
リクと影狼は市庁舎の地下資料室に潜入。
灯りを極限まで落とし、気配を抑えながら動く。
そしてその時。
「……来たか。」
空気が歪む。
影が、動く。
人影のようでありながら、どこか獣のような異形。
その手に握られていたのは、黒く輝く短剣――
「やっぱり……魔族だな。」
リクは短剣を抜き、影狼が低く唸る。
「こんなにあっさり罠にかかるとは……意外とせっかちなんだな、お前たち。」
異形の影は唸るように笑い、答えた。
「お前が“影の者”か……なるほど、見つけた甲斐があった。」
「おいおい、まさか俺が“お目当て”だったのかよ……気に入らんな。」
一瞬の静寂。
次の瞬間、闇の中で交錯する刃。
影が、火花を散らした。
リクは冷静に動きながら、背後にいたもう一体の魔族を察知する。
「影狼、後ろだッ!」
影狼の咆哮が響き、もう一体の魔族が吹き飛ばされる。
だが、その隙を狙って最初の魔族が詠唱を始める。
「影よ、穿て――黒鎖穿界陣!」
足元に広がる魔法陣。リクはすぐに理解する。
(転送陣か……! 逃げる気か!?)
「逃がすかよ!」
リクは術の中心に跳び込み、魔族の腕を掴む。
次の瞬間――
光と闇が混ざり、空間が歪む。
そして、リクの姿は資料室から消えた。
──残された影狼が、怒りに満ちた遠吠えを上げた時。
ゴルムと部隊が突入してきたが、そこにリクの姿はなかった。
「リク……」
暗闇の中、街の運命を背負った少年は、別の地で目を覚ますこととなる――




