第69話 影に潜む者たち
事件から数日が過ぎ、街は一見すると日常を取り戻していた。
だがリクの心は落ち着かない。
夜。街の広場で、彼は影狼とともに警備の巡回に加わっていた。
「影狼、ここ最近……妙な気配を感じないか?」
影狼は小さく唸り、周囲の影に鼻を近づけた。
そのときだった。
ギルドの使者が慌てて駆け込んできた。
「リク様、急ぎ報告を! 西の地下排水路で奇妙な痕跡が……」
その報告に、リクの目が鋭くなる。
「案内してくれ。ゴルムにも連絡を。」
地下排水路。
水音と石壁の反響が、異様な緊張感を醸し出す。
案内役の兵士が指をさす。
「ここです……この痕跡、何かの術式に見えますが……」
そこには、闇色の文字で刻まれた紋章と、奇妙に歪んだ影の残滓。
リクはそれを見て、血の気が引いた。
「……魔族だ。」
影狼が牙を剥き、ゴルムがゆっくりとその場に身構える。
アヴェルの言葉が脳裏に蘇る。
『この地では光の中にこそ、最も深い闇がある。』
「魔族が動いてる……それも、こっちの内部を探ってるような動きだ。」
リクは指先で影の残滓をなぞりながら、顔をしかめた。
「これは……隠密系の魔族の痕跡。俺と同じ“気配を消す”系統の力だ。」
同行した兵士が驚いた表情で口を開く。
「そんな連中が、街に潜んでるんですか……?」
リクは短く頷いた。
「街を混乱させるためだけじゃない。何かを探してる。……もしくは、誰かを狙ってる。」
その言葉に、影狼とゴルムがリクの左右に立ち並ぶ。
「やるしかないな。今度は、隠れている敵をこちらから炙り出す番だ。」
リクの声は低く、だが確かな決意に満ちていた。
その夜、彼は新たな作戦を立てるため、静かにギルドへと戻っていった。
街の夜は静かだったが、地の下では、魔族たちの足音が確かに響いていた。




