第6話 危険な遭遇
傷も癒えたころ、リクは遺跡近くの森を探索していた。進化の儀に必要な魔石を求める旅の最中、彼は再び魔物の縄張りに踏み込んでしまった。
「何だ……この音は?」
耳を澄ますと、どこからか鋭い羽音が聞こえてきた。次の瞬間、木々の間から巨大な昆虫の魔物「鋼殻蜂」が姿を現した。その硬質な外殻と鋭利な毒針は、一目見ただけで危険だとわかる。
「こんな魔物が……!」
鋼殻蜂はリクを視認すると、羽音を高く響かせて突進してきた。彼は慌てて地面に伏せ、間一髪で攻撃をかわした。
「ゴルム、影狼! やるぞ!」
リクの指示で、ゴルムと影狼が鋼殻蜂に挑みかかった。ゴルムは影の刃を放ち、影狼は素早い動きで毒針の攻撃を回避しつつ爪で攻撃する。しかし、鋼殻蜂の硬い外殻にはほとんど傷がつかない。
「くそっ……なんて防御力だ。」
鋼殻蜂はさらに猛攻を仕掛けてくる。ゴルムは毒針を受けて地面に転がり、影狼もその鋭い羽で攻撃を受けて後退した。
「このままじゃ……!」
リクは焦りながら古書を開き、強化の術式を唱えた。ゴルムと影狼の動きが一瞬だけ速くなるが、リクの身体には重い疲労感が襲いかかる。
「これが……魔物使役の代償……!」リクは膝に手をつき、荒い息をつきながらその場に崩れ落ちた。
体中から力が抜け、視界がぼやけ始める。2匹同時の強化を全力でしたせいか、力が出ない。しかし、そのおかげでゴルムと影狼のスピードと力が目に見えて強くなっている。
「ゴルム……影狼……すまない……。」
かすかな声で魔物たちに礼を言いながら、リクは動くことさえ難しい状態に陥っていた。
鋼殻蜂はその隙を見逃さず、再び猛スピードでリクに向かってきた。毒針が空を切り裂くがリクは何とか転がりよけて、毒針は彼のすぐ横をかすめる。
「ゴルム、影狼! 一旦距離を取れ!」
リクの絞りだした声に反応し、二匹の魔物が森の茂みを利用して鋼殻蜂との距離を取った。その間にリクは頭を振り絞って策を練った。
「奴の硬い外殻を正面から突破するのは無理だ……。でも、動きが鈍い瞬間を狙えれば……。」
鋼殻蜂は一瞬止まり、大きな羽を震わせて毒針を生成していた。リクはその隙を見逃さなかった。まともに動けないリクは何とかゴルムと影狼に指示を力ない声で叫ぶ
「ゴルム、影狼! 羽を狙え! 奴の移動力を削ぐんだ!」
ゴルムは影の刃を鋼殻蜂の羽に向けて飛ばし、影狼は鋭い爪で正確に攻撃を仕掛けた。羽の一部が傷つき、鋼殻蜂の動きがわずかに鈍る。
「よし……もう少しだ!」
しかし、鋼殻蜂は反撃に出た。鋭い羽を振り回し、周囲の木々を薙ぎ倒すような攻撃を仕掛けてきた。その衝撃波によりゴルムと影狼が吹き飛ばされる。
「くそっ、これじゃ近づけない……!」
リクはさらに策を練り、周囲の地形を見渡した。そして、倒れた木が足場として使えることに気づいた。
「影狼、あの倒れた木を利用して上から攻撃だ! ゴルムは正面で囮になれ!」
影狼はリクの指示通り、素早く倒れた木を駆け上がり、鋼殻蜂の背後から飛びかかる。ゴルムは鋼殻蜂の正面で鋭い動きで注意を引きつけた。
影狼の攻撃が鋼殻蜂の背中に突き刺さり、大きな唸り声が響いた。しかし、それでも鋼殻蜂は動きを止めない。
「くそっ……あと一押しが足りない!」
鋼殻蜂の攻撃は止まらない。リクが指示を送り続けても、状況は悪化するばかりだった。鋼殻蜂の毒針が迫り、リクは思わず目を閉じた。
その瞬間、鋭い閃光が鋼殻蜂の体を切り裂いた。
「何だ……?」
リクが顔を上げると、一人の冒険者が立っていた。灰色のマントを纏い、大きな剣を構えたその男は無表情で鋼殻蜂を睨んでいた。
「こんな場所で一人で何をしてる?」
男は冷たい口調でリクに問いかけた。しかし、リクが答える前に鋼殻蜂が再び襲いかかる。
「下がってろ。」
男は一言そう言うと、大剣を振りかざした。そして次の瞬間、彼の全身が青白い光に包まれる。
「スキル発動――『剛刃斬』。」
その声とともに、大剣が青白い光を帯びた。鋼殻蜂の硬い外殻がその光によって一瞬で切り裂かれ、巨体が地面に崩れ落ちた。リクはその場に立ち尽くした。自分が苦労して戦った相手を、一撃で倒してしまう冒険者の姿は圧倒的だった。
「これが……スキルの力か……。」
リクの胸の奥に熱い何かが芽生えた。これまで自分が得た力――魔物使役の能力では到達できないような、直接的な破壊力。その力に憧れを感じずにはいられなかった。
「終わりだ。」
冒険者は剣を収めると、リクに視線を向けた。
「魔物使いか。珍しいが、無謀な奴だな。」
リクはようやく息を整えながら、冒険者に向き直った。
「助けてくれて……ありがとうございます。でも、あのスキルは……?」
「剛刃斬か? 戦闘職なら基本中の基本だが、俺のレベルと武器に合わせて威力は変わる。それより、魔物使役の代償がきつそうだな。」
男の目はリクの疲弊した様子を見抜いていた。リクは頷きながら言った。
「魔物使役は……使うたびに体力と精神が削られる。でも、それでも俺にはこれしか……。」
冒険者は静かに溜息をついた。
「珍しい才能だが、無茶をすれば死ぬだけだ。ギルドに行け。基礎を学べば、お前のやり方も変わるかもしれない。」
その言葉にリクはハッとした。
「基礎……?」
冒険者は軽く肩をすくめると背を向けた。
「俺は先を急ぐ。だが、覚えておけ。力を扱うには覚悟が必要だ。」
冷たい言葉だったが、その中に何か確かなものが感じられた。リクはその背中を見送りながら、初めて見たスキルの力に心を奪われていた。
「俺も……スキルを使いこなせるようになりたい。」
そして同時に、魔物使役の代償と向き合い、自分の力を磨く必要性を痛感した。
「俺もあんな風に戦えたら……。」
リクは自分の胸に沸き上がる思いを押し殺すように呟いた。村人たちに疎まれ、幼馴染にすら否定された自分が、このスキルの力を手にしたらどうだろう――そう思わずにはいられなかった。
「みんな、俺を見直してくれるかもしれない。」
しかし、その一方でリクは葛藤していた。魔物使役の力は、自分が初めて手に入れた「他者とは違う能力」だった。それを捨てるわけにはいかない。
「でも……戦いを効率化するには、スキルが必要だ。」
リクはそう考え、自分の力をさらに磨くためにスキルを学ぶ決意を固めた。




