第68話 言葉なき連携
新たな始まりを感じさせるような朝日が、分断地帯の空を赤く染めていた。
リクは街の城壁からその景色を見下ろしながら、隣に立つ影狼に語りかける。
「ここに来た頃は、あの空すら疑ってた。……でも、今は少しだけ信じられそうな気がする。」
影狼は小さく鳴き、静かにリクの足元に身を伏せる。その柔らかな動きに、リクはかつての戦場とは別の平穏を感じていた。
だがその平穏は、束の間だった。
――街の西門でトラブル発生。
街の防衛部隊からの報せを受けたリクは、影狼と共に現場へ急行する。そこには、押し問答を繰り広げる数人の商人と、警備兵たちの姿があった。
「……だから言ってるだろ、あの輸送記録は偽物だ! こんな時間に入ってくる荷は本来ない!」
警備兵の怒号に対し、商人は飄々とした態度で言い返す。
「でもハンコがあるでしょ? これは貴族連合の認可印だ。私たちに罪はありませんよ?」
そのやり取りにリクは眉をひそめる。何かが妙だ。
リクは静かに彼らに近づき、商人のひとりの背後に目を光らせる。そこに見覚えのある影――かつての敵勢力が使っていた、偽造印を作るための刻印具がちらりと覗いていた。
「動くな。」
リクが一言告げた瞬間、影狼がすかさず動いた。影を駆けて偽の商人たちを囲い込む。
「お、おい……なんだこの魔物は……っ!」
「その印鑑、見せてみろ。」
リクが短く言うと、ゴルムが遅れて現れ、商人たちの荷を力任せに開封する。中には武器と、いくつもの偽造通行証が詰め込まれていた。
「……やっぱりな。こいつら、内乱の火種を撒きに来たんだ。」
騒然となる周囲。警備兵たちはすぐさま商人を取り押さえるが、リクの中では一つの不安が芽生えていた。
(誰が……これを通した? 貴族連合のハンコを持っていたってことは、内部に協力者がいる……?)
事件の後、リクは金ぴか――アヴェルの元へと向かった。
「アヴェル、例の偽造印の件、どう思う?」
アヴェルは重たい金のマントを肩にかけながら、小さく息を吐いた。
「内部の誰かが動いてる可能性がある。だがまだ証拠が足りん。……お前はどうするつもりだ?」
リクは影狼とゴルムを見やりながら答える。
「俺はこの街を守る。それが今の俺の場所だから。」
アヴェルは笑みを浮かべ、酒杯を掲げた。
「その決意、悪くない。……だが気をつけろよ、リク。この地では光の中にこそ、最も深い闇がある。」
その言葉にリクはうなずき、静かにその場を後にした。影狼とゴルムが寄り添うように後を追う。
再び街の屋根に立ったリクは、遠く広がる分断地帯の影を見つめた。
まだ暗い部分は多い。
それでも、確かな連携と信頼を武器に、リクはその混沌を少しずつ切り開いていこうとしていた。
「……もう、ひとりじゃないからな。」




