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第60話 湖の底に沈む真実

水の集落の中心に位置する水源管理所は、かつて清浄な水を供給する誇りの象徴だった。だが今、その建物はひび割れた壁と軋む扉、そして途絶えがちな水流がすべてを物語っていた。


リクは案内役の男とともに中に足を踏み入れる。ゴルムと影狼は扉の外に控えさせていた。中には数人の職員と技術者風の人物がいたが、皆一様に目を逸らし、誰もリクと目を合わせようとしない。


「ずいぶんと静かだな。ここ、稼働してるんだよな?」


「え、ええ。ですが最近の干ばつで、水圧が不安定でして……安全のため、一部の施設は停止中です。」


案内役がぎこちなく答えるが、明らかに何かを隠している様子だった。リクは周囲を観察しながら、奥の制御室の扉が異常に重く閉ざされていることに気づいた。


「その奥は?」


「そ、それは……管理責任者しか立ち入りできない区域でして……」


「だったら連れて来い。俺は“銀の蹄”の調査員だ。拒む理由はないはずだ。」


男が口ごもる間に、リクは素早く制御室の扉に歩み寄り、鍵穴に小さな器具を差し込んだ。わずか数秒でカチリと音が鳴り、扉が開いた。


「ちょ、ちょっと!? それは……」


中にあったのは、水の循環制御装置。そしてその横には、破壊された配管と、不自然な“血痕”が残されていた。


「……水圧の不安定? 笑わせるな。」


リクは手袋をはめて配管の断面を調べる。爆発によるものではない。誰かが意図的に破壊した痕跡があった。


「ここで何があった?」


背後から聞こえたその声は、ライル・カリーダのものだった。彼はゆっくりと室内に入ってきたが、その顔には先ほどの笑顔はなかった。


「どうして、勝手に……」


「勝手? お前らが市民を飢えと渇きで苦しめてるなら、俺はその“勝手”をぶち壊す側だ。」


リクが睨みつけると、ライルは小さく息を吐いた。


「……やれやれ。どうしてもこうなるんだな。交渉もせずに正義を振りかざす奴は、いつも話が通じない。」


次の瞬間、制御室の天井裏から複数の黒衣の兵士たちが降下してきた。全員が短剣と麻痺毒の吹き矢を携えている。


「ゴルム、影狼!」


外にいた二体がすぐさま駆け込んできて、制御室は激しい混乱に包まれた。だがリクはその中でも冷静だった。『無声の暗殺者』の能力を使い、一瞬で兵士たちの気配の死角に潜り込み、急所を突く。


「こいつら……貴族の私兵か? それとも、黒蛇の連中と繋がってるのか……!」


ライルは剣を抜いた。だがその目は戦い慣れていない貴族のそれではなかった。


「ふふ……ようやく君と“対話”ができる気がしてきた。」


リクとライルの剣が交差する。一撃ごとに剥がれていく仮面。そして見えてくるのは、かつてリクの村を裏切り、魔物狩りに加担していた“あの貴族”の家紋。


「……お前、まさか……!」


「気づいたか。君の故郷と私の家には、浅からぬ因縁があるんだよ。」


ライルの言葉にリクの心が激しく揺れた。


復讐と正義、支配と調和。交差する信念の中で、リクは剣を握る力を強める。


「この街の真実を、俺が引きずり出してやる……その顔を、仮面ごと砕いてな!」

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