第58話 毒蛇の囁き
リクはギルドの作戦室に集めた報告書に目を通していた。無言の傭兵団を退けた後、交易路に関する情報収集が進み、いくつかの有力な裏の噂が浮上していた。なかでも頻繁に出てくる名前――それは「黒蛇の集い」。
「まるで厨二病ネームだな……」
資料を手にしたリクがぽつりとつぶやくと、隣で書類を手伝っていた金ぴかの側近、メルヴィルが苦い顔をする。
「その“黒蛇の集い”ですが、見た目と名前に反して組織力は侮れません。交易妨害、暗殺、偽情報の拡散まで手広くやってます」
「なるほど、たしかに中身は厄介そうだな……」
リクが資料を閉じると、扉がノックもなく開いた。そこに現れたのは金ぴか――いや、なぜか全身シルバーの衣装に身を包んでいた。
「リク! いい情報があるぞ!」
「なんでシルバーなんだよ!? あんた金ぴかだろ!?」
「たまには色を変えてみたくなってな。ま、心のリフレッシュってやつさ」
リクが呆れながらも話を聞くと、どうやら黒蛇の集いの末端構成員が密かにヴェラーノの外れにある娯楽施設で情報交換をしているという。
「お前が潜入しろって言うんじゃないだろうな」
「安心しろ、今度は私も行く。変装は得意だ」
「派手な変装しか見たことないけどな……」
結局、リクと金ぴか、そして影狼とゴルムの四名で夜の潜入が決まった。
夜、娯楽施設『蛇の笑う屋敷』の裏口。リクは黒ずくめの簡易装束、金ぴかは……なぜかセクシーなバーテンダー姿だった。
「頼むから、今回は真面目にやってくれ……」
「大丈夫だ、色仕掛けが必要になるかもしれない」
「いらねえよ!」
館内は酒と煙草、欲望と裏金が交錯する怪しげな空間だった。リクは視線を下げ、自然な流れで情報を求める構成員たちの会話を盗み聞く。
「……例の商隊、潰されたらしい」
「だが奴らの後ろには“あの一族”がついてるんだろ? 迂闊に動けば俺たちがやられるぞ」
“あの一族”。その言葉にリクは静かに顔を上げた。昔、彼の村を追い詰めた“貴族”の名が、そこに繋がっているのではないかと。
リクは無言のまま席を立ち、裏口へと戻ると、金ぴかが既にバーテンダーとして大人気になっていた。
「お前……本当に仕事してたのか?」
「安心しろ。数人の口が軽い客から、貴族と黒蛇のつながりも取れた。あと3人に惚れられた」
「後ろのやつら全員酔って倒れてんじゃねーか!」
とはいえ、情報は確かだった。黒蛇の集いはヴェラーノの旧貴族の一派と結託し、交易支配と政治混乱を狙っているという。
「つまり、この街の“裏の蛇”は、ただの盗賊集団じゃなく、貴族の影そのもの……」
リクは拳を強く握りしめた。
「次は……蛇の本体を叩く」
夜の帳の中で、リクたちは次なる動きの準備を始めていた。




