第55話 魔族との交渉
ヴェラーノ市場の会議室。リクは目の前に座る魔族の代表、ラグザ・ヴェルトをじっと見つめていた。
「影の王殿、こうして正式にお話しするのは初めてですね。」
「……まぁな。」
ラグザは優雅な仕草で紅茶を口にしながら、リクの表情を窺う。
「さて、本題に入りましょう。あなたは市場の混乱を収めるために、我々魔族との取引を希望している。正直なところ、我々も貴族派閥の影響が弱まった今、この機会を活かしたいと考えています。」
「つまり、お前たちは市場に食い込む気満々ってことか?」
「当然です。我々魔族の物資は、今やヴェラーノにとって不可欠。ですが、一部の人間たちはそれを良しとしない。」
リクは頷きながら、視線を横に向けた。バルドとライザが興味深そうに話を聞いている。
「取引条件を聞かせろ。」
「実にシンプル。我々が食料と生活物資を提供する代わりに、ヴェラーノの市場での公正な取引を保証してほしい。つまり、人間と魔族が対等に商売できる環境を作ってほしいのです。」
「それができれば苦労しねぇよ……。」
リクは額を押さえながらため息をつく。
「だが、市場に流通させる物資が必要なのは事実だ。お前らの食料供給が安定すれば、市民も納得するかもしれねぇ。」
ラグザは微笑んだ。
「話が早くて助かります。ですが、問題があります。」
「問題?」
「魔族の商隊が、市街に入る前に襲撃されるのです。おそらく、貴族派閥の残党か、それを支援する何者かでしょう。」
「……なるほどな。」
リクは静かに考え込む。
「つまり、魔族との取引を進めるためには、商隊を守る必要があるってことか。」
「ええ。我々も護衛をつけていますが、相手は熟練した傭兵たちです。影の王殿、あなたの力をお借りしたい。」
リクは短剣を握りしめた。
「いいだろう。俺が直接、商隊の護衛を引き受ける。」
ライザが吹き出した。
「おいおい、影の王自ら護衛かよ。ずいぶんと庶民的だな?」
「市民の信用を得るためだ。力だけじゃなく、実際に動かないとな。」
バルドが満足げに頷いた。
「商人たちも、影の王が護衛に入るとなれば、信頼も増すだろうな。」
リクはラグザと固く握手を交わした。
「次の商隊の出発はいつだ?」
「二日後。我々の補給隊がヴェラーノに向かう予定です。」
「分かった。そいつを守れば、市民も魔族との取引を受け入れやすくなるはずだ。」
ラグザは満足げに微笑んだ。
「では、影の王殿の力、拝見させていただきましょう。」
こうして、リクは魔族との同盟を進めるため、商隊の護衛という新たな試練に挑むことになった。




